lagom
2025/03/20 ~ 2025/03/23

「かわいい椅子には旅をさせよ from 松本」— 受け継がれるものづくりの想いと挑戦

lagom

作家やデザイナーが喜びを感じながら創った美しい「もの」には、作り手の喜びが染み込み、使い手へその喜びを共感させる幸せな力があると思います。このインタビュー企画では、作り手が感じた創作の喜びを聞かせてもらい、使い手の皆さんに喜びに満ちた美しさを感じていただければと思います。

聞き手:須長 檀(左)、語り手:宮脇 弘幸さん(中)、高橋 華菜さん(右)

話し手:宮脇 弘幸さん(以下、宮脇)、高橋 華菜さん(以下、高橋)
聞き手:須長 檀(以下、須長)

須長:今回は、「幸せなデザイン企画」の第二回目のインタビューです。作家さんたちが手がける、個性豊かな子ども椅子が一堂に会する「はぐくむ工芸 子ども椅子展」を手がけるNPO法人 松本クラフト推進協会の宮脇さんと、高橋さんのお二人に、その背景や想いについて、じっくりとお話を伺いたいと思います。

松本市街全体を会場にしたクラフトの祭典「工芸の五月」

須長:「はじめに、子ども椅子展の企画・運営の母体にもなっている『工芸の五月』について教えてください。

宮脇:「はい。長野県松本市で毎年5月に開催される『工芸の五月』は、街全体を会場にしたクラフトの祭典です。歴史ある建物や公園、美術館、ギャラリーなどを舞台に、工芸作品の展示や販売、ワークショップ、作家との交流イベントが行われます。」

工芸の五月HP(https://matsumoto-crafts-month.com/)より

宮脇:「このイベントの目的は、工芸をより身近なものとして感じてもらうこと。松本は伝統的な木工や家具づくりが盛んな地域であり、そこに新しい感性を持つ作家たちが加わることで、多様なものづくりの文化が育まれています。工芸の五月は、そうした工芸の魅力を広く発信し、作り手と使い手がつながる場を提供しています。」

宮脇:「運営を担うのが、工芸の五月実行委員会と、その事務局を務めるNPO法人の松本クラフト推進協会。市内のギャラリーや美術館、商店街、企業など、多くの団体が協力し合いながら、松本の工芸文化を支えています。こうした活動の一環として、『はぐくむ工芸 子ども椅子展』や『クラフトフェアまつもと』など、さまざまなプロジェクトが展開されています。」

宮脇:「工芸の五月は単なる展示会ではなく、松本という街の魅力そのものを体感できるイベントです。作り手の想いや、長く使い続けられるものの価値を、訪れた人々に伝える場となっています。」


工芸を日常に—美と暮らしを結ぶ活動

須長:「工芸の五月で関わる工芸作家さんは特定の組織に所属しているのではなく、プロジェクトごとに関わっていく形なんですね。」

宮脇:「そうですね。私たちは“美と暮らしを結ぶ”というテーマを掲げ、工芸を日常に取り入れる機会を作っています。今回の『はぐくむ工芸 子ども椅子展』の他にも、お酒と工芸品を楽しむ『ほろ酔い工芸展』や、工芸と彫刻の狭間を漂う『異形の宴』といったイベントを行い、多様な視点から工芸を発信しています。企画やイベントによって、関わっていただく作家さんたちも様々です。」

高橋:「それ以外にも単発の企画を積極的にやっていますね。例えば、去年は大きな家具と小物を組み合わせた展示をしたり、住宅の壁の凹みにぴったり収まるサイズの作品を企画したりしました。そのときどきで、新しい試みを考えています。」


「はぐくむ工芸 子ども椅子展」とは

須長:「子ども椅子展は長く続いている企画のようですが、どのような経緯で始まったのでしょうか?」

宮脇:「もともとは、松本市にある老舗ギャラリー『グレイン・ノート』のオーナーであり作家でもある指田哲生さんが始めた『子ども椅子展』がきっかけです。その後、松本市からの要望があり、2012年から松本市美術館で『はぐくむ工芸 子ども椅子展』として開催されるようになりました。」

宮脇:「美術館の中庭に芝生を敷いて、子どもたちが実際に座って試せるようにしていました。自然の中で工芸に触れる機会を作るという意味でも、すごくいい環境だったんです。ただ、天候に左右されやすいので、最近では屋内での開催も増えています。」

高橋「一昨年は、御代田のMMoPで開催されたデザインイベントに参加し、芝生ゾーンをお借りしました。春の爽やかな雰囲気とはまた違い、秋の芝生と紅葉した木々が美しく、季節ならではの魅力がありました。『かわいい椅子には旅をさせよ』というテーマにもぴったりで、風景としても絵になる展示になりました。」

高橋「昨年からは、松本市の『信毎メディアガーデン』での開催になりました。屋内になったことで天候の心配がなくなり、より多くの人に見てもらえるようになっています。会場に来た子どもたちは、並べられた椅子を、端から順に座っていてて、座り心地を確かめていました。あるところに来ると、止まるという。あ、この椅子だって。そこで受注という形もできるので」


「可愛いこども(椅子)には、旅させよ」

須長:「最近では、この展示を“出張”する形で全国に広げているそうですね?」

「可愛い子ども椅子には、旅させよ」について語る宮脇さん

宮脇:「はい。“かわいい子(椅子)には旅をさせよ”という考えのもと、椅子たちを全国に連れて行き、より多くの人に見てもらう活動を始めました。これまでに立川や博多にも行きましたし、今後は東京や横浜方面にも展開していきたいと考えています。各地を巡ることで、より多くの方にこども椅子の魅力を知ってもらえるのがうれしいですね。」

須長:「全国を巡ることで、こども椅子にどんな変化が生まれましたか?」

宮脇:「作家さんたちも毎年新作を作るので、デザインが少しずつ進化していきます。もともとは木工作家が中心でしたが、最近は(須長さんのような)デザイナーも加わり、発想の幅が広がっています。伝統的な技法を活かしながらも、新しい試みが増えてきているのが面白いですね。」

高橋「展示を重ねることで、”松本市の美術館でやってますよね”と認知されるようになってきました。この企画に合わせて新作を作る作家さんも増えていますし、新しい作家さんもどんどん加わっています。最初は木工作家が中心でしたが、今ではデザイナーさんも関わるようになり、“デザイナーが作るこども椅子”という新しい視点が生まれていますね。」

須長がデザインした、もふもふの椅子

高橋:「実際に、以前はシンプルなデザインの椅子が多かったですが、最近は動物の形をしたものや、モフモフした素材を取り入れたものなど、遊び心のある作品も増えてきました。こども椅子自体がどんどん進化しているのを感じます。」


世代を超えて受け継がれる椅子

宮脇:「私たちもそうですが、作家さんたちも、自分の作った椅子をずっと大切に使ってもらいたいと思っています。修理も請け負うので、一生寄り添ってほしいと。」

宮脇:「最初は、おじいちゃんがお孫さんに贈り。お孫さんが成長して使えなくなったら、今度はおじいちゃんに戻して玄関椅子として使ったり。それが、また次のお孫さんへと受け継がれていくような。そんな世代を超えた長い時間の中で、たくさんの物語が生まれる椅子になればいいなと思っています。」

須長:「ヴィンテージのアンティークショップで見かける子ども椅子には、何世代も使い続けられた証として、3人くらいの名前が彫られていることもあります。そんな風に、この椅子も長く愛されてほしいですね。」

宮脇:「こども椅子たちと共に、私たちの事業も成長させて、これからも続けていきたいと思っています。」

須長:「すごく素敵ですね。受注生産が基本とのことですが、子どもたちにとっても、作家さんにとっても特別な作品になりそうです。」

宮脇:「はい。作家さんにとっても、1年に1回この展示でお客さんが椅子を選ぶ様子を見ることが貴重な機会になっています。“こんな風に使われているんだ”と実感し、それを次の作品に生かすことで、椅子も年々進化しているんです。」


作家の挑戦の場としての子ども椅子展

須長:「この展示会は、工芸作家にとってどのような場になっていますか?」

宮脇:「子ども椅子だけを集めた展示というのは、とても珍しいんです。椅子のデザイン自体がニッチな分野ですが、特に子ども椅子となると、さらに市場も小さくなります。大人用の椅子と同じ手間やプロセスが必要なのに、価格を抑えなければならず、しかも子どもが成長すると使えなくなってしまう。そういった理由もあるからです。」

高橋:「子ども椅子専門の作家さんというのはいなくて、普段は小物を作る作家さんがこの展示のために椅子に挑戦したり、逆に椅子専門の作家さんが小物を作ったりするんです。そうした挑戦の場になっているのが、この展示の面白いところですね。」

宮脇:「この展示をきっかけに、作家さんが『子ども椅子をつくる楽しさ』を感じてくれたら、と思っています。子どもが実際に座っている姿を見たり、家族と一緒に選んでもらったりすることで、ものづくりの喜びをより実感してもらえたらうれしいですね。同時に、作家さんの存在や仕事を知ってもらう機会になればと考えています。」

高橋:「今回の展示では、普段作っている小物と、その作家さんが手掛けた子ども椅子が並んでいるものもあります。やはり、作家さんの個性は椅子にも表れていて、それを見比べるのがとても楽しいです。」

宮脇:「この展示の影響で、作家さん同士の交流も生まれていますね。普段は小物を作っている作家さんが、今回の展示をきっかけに初めて子ども椅子を作ってみたり、逆に家具を専門にする作家さんが小物づくりに挑戦したり。それによって、互いの作品を知る機会が増え、新しい発想を得たり、コラボレーションにつながることもあります。作家同士の刺激になる場としても、とても価値があると思います。」

作家さんが作ったクマの可愛さを語る、高橋さん

須長:「本日は貴重なお話をありがとうございました。ものづくりの背景や想いを知ることで、こども椅子展がより特別なものに感じられました。」


こども椅子たちに会いに来てください

世代を超えて受け継がれるこども椅子たち。作り手の想いと、使い手の物語が織りなすこの展示では、実際に手に取り、座って、ものづくりの温かさを感じていただけます。

今年も「かわいい椅子には旅をさせよ from 松本」が”lagom”にて開催されます。プレ展示では、一足先にこども椅子たちを紹介。本展示では、さらに多くの作品が集まり、作家たちのこだわりや個性が光る椅子を実際に体験することができます。

家族で一緒に、お気に入りの椅子を見つける時間を楽しんでみませんか? こども椅子たちとともに、会場でお待ちしております。

イベント名:かわいい椅子には旅をさせよ from 松本
プレ展示:2025年2月6日(木)〜
本展示: 2025年3月20日(木)〜23日(日)

場所:lagom
住所:〒389-0207 長野県北佐久郡御代田町大字馬瀬口1794-1(MMoP内)

工芸の五月
工芸の町長野県松本を拠点に、NPO法人松本クラフト推進協会を運営事務局として2007年に発足。

松本の5月を工芸月間と位置づけ、41年続いているクラフトイベント「クラフトフェアまつもと」をファイナルに、4月下旬から5月末まで様々な会場でのイベントの紹介、展覧会のオーガナイズ、サポート、発信の他、期間中「異形の宴」「ほろ酔い工芸」「はぐくむ工芸子ども椅子展」等、松本の町を工芸で彩る活動を松本市との共催で行っている。

近年では、工芸月間の他、「かわいい椅子には旅をさせよ」等の出張展示、美と暮らしをテーマにした「ニッチの世界」等の様々な活動により、作家の紹介、新しい工芸との出会いを1年を通して伝えている。

宮脇 弘幸
東京都出身
NPO法人松本クラフト推進協会 工芸の五月実行委員

2013年に信州に移住。作家との交流から、ものつくりの素晴らしさに感銘を受け、2021年よりスタッフとして同協会に参加。その後、14年前から始まった「工芸の五月」運営に携わる。
多様な作家、作品の紹介を軸に、つくり手とつかい手をつなげ、それに携わる人の暮らしが豊かになるよう、今のライフスタイル提案と共に活動の輪を広げていく事を目指している。

髙橋 華菜
長野県長野市出身
工芸の五月スタッフ

3児の母
元々クラフト作品に興味があり、クラフトフェア•ピクニックのスタッフとして参加。そこからご縁があり工芸の五月にも携わらせて頂いてます。素敵な作家さんたちの作品のよさをたくさんの人に知って頂けるお手伝いができたらと思っています。

須長 檀
デザイナー・クリエイティブディレクター
1975年スウェーデン生まれ。家具作りを学ぶためにスウェーデン・ヨーテボリの大学に留学。卒業後さらにストックホルムにある王立美術大学「KONSTFACK大学院家具デザイン科」に進学。在学中からデザイナーとして活動をはじめ、大学院を卒業後はスウェーデンの小さな港町ヨーテボリに「SUNAGA DESIGN STUDIO(スナガ デザイン スタジオ)」を設立。

店名 : lagom
TEL : 090-4642-3930
営業時間 : 10:00~17:00
定休日 : 水曜日(冬季は水曜日、木曜日)
ペットの入店 : 抱っこもしくはカートで入店可