lagom
2025/01/17 ~ 2025/01/31

スウェーデン発の手工芸が導く、ファンタジーの世界

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なぜ、人は美しいものを作るのでしょうか?
僕は「美しいものを作ること=幸せ」と考えています。

作家やデザイナーが喜びを感じながら創った美しい「もの」には、作り手の喜びが染み込み、使い手へその喜びを共感させる幸せな力があると思います。

このインタビュー企画では、作り手が感じた創作の喜びを聞かせてもらい、使い手の皆さんに喜びに満ちた美しさを感じていただければと思います。

話し手:小林 英里果さん(以下、小林)、Peter Pålssonさん(以下、ペーテル)
聞き手:須長 檀(以下、須長)

須長:今回は、「幸せなデザイン企画」の第一回目のインタビューです。お二人をお迎えでき、大変嬉しく思います。初めてお二人の作品を拝見した際、その豊かな創造性と自由さに一目惚れしました。お二人の創作することへの喜びが、作品からも伝わってきます。

須長:エリカさんのテーマはとても興味深いですね。木工と音を組み合わせるという、これまでにないユニークなコンセプトに驚きました。特に、緊張感あるビジネスシーンで名刺ケースを閉じると「ふいご」の仕組みでプーッと音が鳴るのが最高です。このシリアスな場面と力が抜けるような音のギャップには、スウェーデンらしいユーモアとおしゃれさを感じ、一目でファンになりました。

— 音のなる名刺ケースについて

須長:この名刺ケースで名刺を渡されたら、場が和み、小さな笑いが生まれると思います。僕ならその人をすぐ信用してしまいそうです。制作中のエリカさんが、いたずらっ子が落とし穴を作るようなワクワクを感じている様子が目に浮かびます。やはり、そういったシーンを狙って作られたのでしょうか?

小林:ユニークな音が出るのは、スウェーデンっぽいですよね。パイプオルガンに興味をもっていたこともあって、箱から音が鳴るという仕組みには、ずっと惹かれていました。日用品に音を一つ加えることで生活が楽しくなる。『箱』に『音』を付属させるアイデアは、学生時代から大切にしているコンセプトの一つです。

小林:名刺交換は第一印象が数秒で決まりますが、例えば強面の方がこの名刺ケースを持っていたら、もしかしておしゃれな人かも?と印象が和らぐかもしれませんよね。大人数で名刺を何枚も交換する場面でも、音と一緒ならきっと記憶に残りやすいんじゃないかなって。同時に、空気を和ませるお手伝いができたら嬉しいなと思っています。

須長:単に面白いというわけではなく、精巧にできているからこその音、という点もユーモアがありますよね。そのバランスが、見ていて楽しいです。

須長:音による人と人のつながりを考えた時に、まず浮かんだのは、音楽以前の原始的な人の作り出す音でした。暗闇の中で仲間を呼ぶ口笛。月のない暗い森の中で視覚を奪われ、方向間隔を失ったときに頼れるのは、仲間の鳴らす口笛の音だけ。僕らの先祖にとって光を失う恐怖は僕らが想像するよりももっと大きな事件だったのだと思いますし、その時に聴いた仲間の出す音はさぞかし頼り甲斐があったことだったと思います。

須長:そういった意味で僕らのDNAに刻まれた音楽以前の音には、そういった緊張感の中で聞こえる時こそ、原始の記憶を呼び覚まされる力があるのではないかと思いました。エリカさんにとっての音とはどんなものですか?

小林:子どもの頃の思い出や、昔聞いた音が一瞬で蘇る経験は、多くの人が持っているはずです。私にとって、音は記憶そのものだと思います。

小林:音は材質によって、あるいは寸法によっても変わるので、微調整しながら音をつくっています。最近のものは、指で塞いで音を少し低くするための穴を作ったりもしています。いろいろ試行錯誤しながら、楽しい音を探しています。

— 音の鳴る壁画について

須長:個人的に装置のようなものにとても強く惹かれます。音が出るからといって何かの欲に立つわけではないのですが、その仕組みが視覚化されている。そして仕組みを見ることでその構造が理解できることにある一種の美しさを感じます。

須長:こういった機械の仕組みを美しいと感じるのは、なぜなんでしょう?きっと理解することが美しいと感じるというような秘密の公式が存在するのではないか、とエリカさんのオブジェを拝見して思わずにいられませんでした。エリカさんはどうしてこのオブジェを作ろうと思ったのでしょうか?

小林:最初にパイプオルガンを作ったとき、工房を訪れたお客さんから仕組みについて質問され、一般の人にも理解してもらいたいと考えるようになりました。そこで、メカニックな部分を取り入れ、仕組みがわかるアート作品として楽しめる形を目指しました。当初は「ふいご」を隠すつもりでしたが、音の仕組みを見せることで作品の魅力を伝えたいと思うようになりました。色をつけると、視覚的にも聴覚的にも楽しめる形になりました。

須長:かつてパイプオルガンが全盛期を迎えていた時代、その構造には一国の技術が結集されており、まさに国家の威信を象徴する存在でした。一台のオルガンが、まるでオーケストラのような壮大な音色を奏でられるという点に、大いなるロマンを感じます。その一部を、家庭に取り入れ、目で楽しみ耳で味わえるのは、とても素晴らしいことだと思います。

— パラサイト動物について

須長:ペーテルさんの作品は、1点もののアートピースです。木の箱という概念を楽々と飛び越える作品で、ペーテルさんの自由な想像力に嫉妬さえ覚えます。僕自身、子供のように想像世界の中でデザインをしたいという強い願望があります。できるだけ考えずにフッと浮かんできた得体の知れないものを掴んで作るようにしています。ペーテルさんはあらかじめスケッチをした完成図を作ってから制作するのでしょうか?それとも削りながら形を作っているのでしょうか?

ペーテル:最初は作り始める前に、大体の大きさを決めて、機械で荒削りしています。木材は、プランを立てて順序立てて作らないといけません。自分の気持ちが準備できるまで、その状態で置いておくこともあります。作りながら考えが変わることもあります。その都度、調整しながら完成させることが多いですね。

須長:ペーテルさんの作品は、不思議な存在だと思っています。植物的でもあり、動物的でもあります。生物と無生物の間のような印象があります。

須長:樹木が、一旦死んで木材になる。ペーテルさんは、それを単に可愛いだけではない、リアリティのある生物に作り変えていると思っています。素晴らしいですよね。ペーテルさんの中で、これらの生物は、どんな世界をどのように生きているんですか?

ペーテル:材料に対する敬意は、とても大切なものだと思っています。木材は、一緒に仕事をしているパートナーとでも言いましょうか。当然、私の中で木材は生きています。私の手の中で、動いたり、変形したり、割れることもあります。私の手の中で、木がどう振る舞うのかを観察することは、最終的な形を決める手助けになっています。

ペーテル:この生物の、まるでトランペットのようなこの器官は、どんな働きをしているのか。音をどう吸収するのか。そんなこと考え、生きる姿をイメージしながら作品を作っています。

須長:ペーテルさんの作品には、ストーリーがある。リアリティもあります。見たことない作品がたくさんなので、いつも楽しみにしています。

ペーテル:私は、自分の作品を『ファンタジーの胎児』と表現しています。

須長:お二人のファンタジーの世界から、たくさんの胎児が生まれることを楽しみにしています。

2人が通っていた工芸学校カペラゴーデンの中庭

須長:スウェーデンの工芸にはヘムスロイドとコンストハンドベルグがありますがこの二つの違いは何でしょうか?

ペーテル:ヘムスロイドとは、『家庭の手工芸』のことで、手作りで作られた衣服や織物、家道具などの総称です。農家さんが冬の閑散期に副業として行なっていました。コンストハンドベルグは、明確な芸術的コンセプトを持ちながらも高度な技術が求められる工芸を指します。近年では両者が混ざり合う傾向がありますが、かつてはより明確に区別されていました。

須長:豊かな感性と才能を有する作家さんも素晴らしいのですが、その自由な才能でつくったものを理解して購入する生活者が多いのも、スウェーデンの素晴らしいところだと思います。わからないことを楽しむ、わからないところに美しさを見出す文化は、日本とは大きく違うと感じています。

須長:お二人はどちらの国も見ていると思うが、作り手から見た、使う人たちの様子の違いを感じることはありますか?

小林:スウェーデンの人は自宅で過ごす時間が長いので、より居心地の良い空間にしたいんだと思います。例えば壁の色を考えるときに、日本だと無難な白を選ぶ人が多いかもしれません。私たちは、黄色や緑色にしようと思っていました。せっかくだったら、絵を飾ったりタペストリーを吊るして、暖かい空間にしたいよね、とか。ちょっとした『こうしたい』の積み重ねが、モノへの興味の差になってるのかもしれませんね。

ペーテル:スウェーデンには、日本ほど多くのレストランがないこともあって、親戚や友人を家に招いてホームパーティを開く文化が根付いています。自宅をいかに居心地の良い空間にし、訪れた人に喜んでもらうか。スウェーデンの人々が、アートへの関心が高いのは、そのあたりも影響しているかもしれませんね。

須長:スウェーデンのコンストハンドベルグは、富の象徴や投資の対象としてのアートとは異なり、日常の暮らしに寄り添う存在です。家に取り入れられたアートは、鑑賞されるだけでなく、友人との会話のきっかけとなり、空間に美しさと喜びをもたらします。まさにアート本来の姿を体現しており、そこに大きな魅力を感じます。

須長:ラゴムの展示会に来てくださる方にメッセージはありますか?

小林:私たちが作る名刺ケースやリングケースなど、目的がはっきりしているものもありますが、半分くらいは『何のために?』と思われるようなものかもしれません。しかし、それもまた大切なことだと思っています。『これは何だろう?』と感じながら見てもらうだけで十分で、それを無理に発展させる必要はありません。それよりも、作品を通じて新しい気持ちや想像が広がったり、『この生物はどんな生活をしているのだろう?』とか、『この音で誰が楽しんでくれるだろう?』といったファンタジーの世界へ繋がるきっかけになれたら、嬉しいですね。

ペーテル:これまでは機能性を重視した作品が多かったのですが、アート的な表現を追求する楽しさを改めて実感しました。お客様が作品を見て楽しんだり喜んでくれたり、あるいは、自分でも何かつくってみたいと思っていただけたら、とても嬉しいです。

展示会情報

展示名:Wood banter 二人の作家の木を使ったじゃれあい
会期:2025/01/17〜2025/01/31
場所:lagom
住所:〒389-0207 長野県北佐久郡御代田町大字馬瀬口1794-1(MMoP内)

小林 英里果
北海道旭川市出身 | 木工職人
スウェーデン家具製作修行中にパイプオルガンの制作現場に出会い感銘を受け、以来木製パイプを取り入れた製作を続けている。音が人に与える影響をプロダクトとして身近な存在になるよう「音の鳴る箱」をコンセプトに自身のメインプロジェクトとしている。

Peter Pålsson(ペーテル・ポールソン)
スウェーデン・スコーネ地方出身 | 木工職人/デザイナー
機械を主に使用する製作方法から、カービングナイフを使用する方法を混合させ、独自の造形を行っている。天と地の間の生物の腐敗や分解からイメージされた独自の小さな空想をカービングナイフで創り出している。

須長 檀
デザイナー・クリエイティブディレクター
1975年スウェーデン生まれ。家具作りを学ぶためにスウェーデン・ヨーテボリの大学に留学。卒業後さらにストックホルムにある王立美術大学「KONSTFACK大学院家具デザイン科」に進学。在学中からデザイナーとして活動をはじめ、大学院を卒業後はスウェーデンの小さな港町ヨーテボリに「SUNAGA DESIGN STUDIO(スナガ デザイン スタジオ)」を設立。

店名 : lagom
TEL : 090-4642-3930
営業時間 : 10:00~17:00
定休日 : 水曜日(冬季は水曜日、木曜日)
ペットの入店 : 抱っこもしくはカートで入店可