
変わらない思いを身にまとう、世代を超えて受け継がれるファッション

作家やデザイナーが喜びを感じながら創った美しい「もの」には、作り手の喜びが染み込み、使い手へその喜びを共感させる幸せな力があると思います。このインタビュー企画では、作り手が感じた創作の喜びを聞かせてもらい、使い手の皆さんに喜びに満ちた美しさを感じていただければと思います。
Lagom では一年を通じ、選りすぐりのブランドを招いた展示販売会を開いています。 今回お迎えしたのは、兵庫・西宮発のアパレルブランド Permanent Age。 “変わらない思い”を服に映すものづくりについて、代表の蓑田さんに語っていただきました。

話し手 | 株式会社パーマネントエイジ 代表取締役:蓑田(みのだ) 尚久さん(以下、蓑田)
聞き手 | 一般社団法人konst代表理事・デザイナー:須長 檀(以下、須長)
“いつまでも変わらない思い”をかたちに──Permanent Age
蓑田「ブランド名を Permanent Age にしたのは、“永久に続く時代=大人になっても揺らがない価値観”を表したかったからです。世代や年齢関係なく、どれほど環境が変わっても、好きであり続けるものや大切にしたい感覚はきっとありますよね。私たちは、その“変わらない思い”を服というかたちで届けていきたいと考えています。言葉にすると少し硬い印象ですが、私たちの気持ちとしては“ぶれない気持ちを大事にしていきたい”、ただそれだけなんです」
須長「“大人になったら着る服”というニュアンスも感じます。“AGE” が年齢を指しているのかな、と」

蓑田「そう感じていただいても嬉しいです。“いつか大人になったらこんな服を”という思いも、私たちが守りたい“変わらない思い”の一つですから。解釈は自由です。大切なのは、年を重ねても好きだと言えるものをそっと持ち続けることだと思っています」

世代を超えて愛されるブランドの、こだわりと余白
蓑田「店頭に立っていると、祖母・母・娘の“三世代”でいらっしゃる光景に出会うことがあります。中心は 40~60 代のお客様ですが、最近は 30 代後半の方も増えてきました。同じアイテムを年代ごとに違う色で選ばれたりして、『ああ、まさに “エイジレス” だな』と感じる瞬間ですね」
須長「20 歳ほど離れた世代にも響くデザインにするのは、難しくありませんか」

蓑田「私たちの基準は変わりません。“これがあったら自分も着たい”と思えるものしか扱わないんです。たとえ世の中で流行っていても、自分たちが心から良いと思えなければ仕入れません。結果として選ぶのは、やはりシンプルでベーシックなもの。ただ、一見普通のTシャツであっても、デザイン的に、技術的に、細かいところまでこだわりをもって作っています。」
須長「これがあったら自分も着たい。つまり”好きかどうか”ご自身の美意識が確立しているからこそぶれないわけですね。」
蓑田「そうですね。20 代・30 代のお客様が少し背伸びして選びたくなるような“共感の余白”も残しておきたいんです。私たちが大切にしているものを、世代の違う方にも“いいですね”と言っていただけたら、とても嬉しいです」
年を重ねた女性が求める「美しさ」
蓑田「”二の腕をほどよく隠したい”、“首もとは開きすぎないほうが落ち着く”。お客様から、そんなお声をいただくことがあります。私たちは、どの年代のお客様にとっても、袖を通すことで“少し若々しく、でも年相応の品もある”という印象をもってもらえるような、そんな寄り添い方をしたいと思っています」
蓑田「例えば、同じ5分袖のプルオーバーでもカットソーだけでなく、素材を変えて布帛で表現することにより、暑さが厳しい季節でも、生地が身体から離れて風が通り涼しく着用することができたり、襟、袖口、裾だけカットソー使いにすることで、身体にほどよくフィットしすっきりと着用することができたり、ちょっとしたさじ加減で着心地や見栄えもずいぶんと違うんです。」


須長「美しさがありながら実用性も高い。その両立が Permanent Age らしいですね」
蓑田「機能だけでも、デザインだけでもなく。着用している自分を好きになれるような。」
蓑田「無数のブランドがある中で、わざわざ時間をかけて私たちの服を選び続けてくださるお客様がいらっしゃいます。買った服を着て『褒められた』『気分が上がった』とお話しくださるたび、装いは “こうありたい自分” に寄り添うものなのだと実感します。日常を少し楽しく、少し誇らしく――そんな小さな高揚感をお手伝いできるブランドでありたい。それは私たちが代替わりしてから、いっそう強く意識するようになりました。」

須長「美しいものを、作り・身に着け・褒め合うという循環こそが本当の幸福につながると感じています。スウェーデンの思想家エレン ケイも『美は幸福そのもの。幸せになりたいなら、美を感じ取る心を育てなさい』と言っていて。蓑田さんが美しい服を生み出し、お客様が“きれいだ”と感じてそれを選び、さらに周りの人が褒める――作り手・着る人・見る人、それぞれの美意識が重なり合う瞬間がいちばん幸福なのではと思います。単なる“便利な服”では成り立たない連鎖ですが、蓑田さんの美意識に機能性と着心地が伴っているからこそ、世代を問わず伝わっていくのだと感じます。」
新しくしたいこと、そのままで残したいこと
蓑田「コレクションごとに、すべてを新しくしているわけではないんです。残したいところと、新しくしたいところを、分けて考えています。見た目は同じTシャツでも、袖丈・身幅・生地など、毎年“マイナーチェンジ”してアップデートしているんです」




須長「変わらないといけないところと、変わらずに残したいところの判断のバランスがいいですよね。北欧の家具デザイナー、ハンス・J・ウェグナーは100以上の椅子をデザインしていますが、彼も最初のモデルを起点に、ディティールを改良しながらバリエーションを派生させていました。Permanent Ageさんのスタイルも、職人的と言いますか、似たものを感じています」
蓑田「シンプル、ベーシックが基本なので「去年のものよかった、あれもう一枚欲しい」と言われることがよくあるんですよね。でも、たとえ定番として残す場合でも、その時々で求めらえる着方もサイズ感も少しずつ変わります。だから微調整が必要なんです。同じように見えて、糸の太さや編地など素材を変えたり、首の開き具合や丈や幅などサイズ感を微調整していたり。こうして“残すもの”と“新しくするもの”を両立させていくことが、Permanent Age のものづくりだと考えています」
神戸の街で、夫婦から夫婦へ受け継がれたブランド
蓑田「私たちの店は、神戸と大阪のあいだ――山と海に挟まれた苦楽園という静かな住宅街にあります。振り向けば六甲の山並み、足元には瀬戸内の海。三宮のような繁華街から少し離れた落ち着いたエリアです。時間の流れが少し緩やかなこの場所で、買い物を楽しんでいただきたいですね」

蓑田「会社が生まれたのは 2000 年です。先代の林夫妻もアパレルを手がけていましたが、地元・阪神間で、自分達のやりたいお店を新しいカタチで表現したくて、Permanent Ageを立ち上げました。以来、夫婦経営が二代つづく稀有なブランドになりました」
須長「夫婦経営は意思決定が独特ですよね。価値観を共有しやすく、判断が早い。それに忖度もない。ごく自然に美意識とビジネスの折り合いを考えやすいんじゃないかと思っています。夫婦という単位で社会の価値観と向き合い、ブランドを動かしていく。夫婦が築き上げたブランドを、夫婦が受け継いだ。そのことこそが、Permanent Ageのブランドをより深く醸成するものになっているのかもしれませんね」
会いに行って、触れてもらう ― 全国を巡るポップアップ
蓑田「ネットで服を選ぶのが当たり前になりましたが、画像だけでは生地の厚みや手ざわり、色の深さまでは伝わりません。だから私たちは毎年、北は北海道から南は福岡までポップアップイベントで、遠方のお客さまにも私たちのブランドを体感していただく機会をつくっています。半年に一度、あるいは一年に一度でも、顔を合わせてお話しすることでブランドの空気感がしっかり届くと感じています」
蓑田「スタッフ任せにせず、できる限り私自身も店頭に立ちます。前回お買い上げくださった服を着て再訪してくださる方がいて、『また褒められたんですよ』と笑顔で報告してくださる。その瞬間がいちばん嬉しいですね。Permanent Age をまだご存じない方とも静かに輪を広げていきたいと思っています」