冬の寒さが深まる季節、体をじんわりと温めてくれるスープは何よりのご馳走。キャボットコーヴ MUSEUM TERRACEでは、お客様のリクエストに応え、11月から3月の間、「本日のスープ」を日替わりでご用意しています。その中でも特に人気なのが、アメリカ東海岸・ニューイングランド地方の伝統料理「クラムチャウダー」です。
本場のクラムチャウダーにはホンビノス貝が使われることが多いですが、キャボットコーヴでは国産のアサリを贅沢に使用。クリーミーなスープにホクホクのジャガイモ、野菜、アサリの旨味が溶け合い、心までほっとする味わいです。「50年前にボストンで食べたクラムチャウダーを思い出す」と言うお客さんもいるそうです。

この一杯を作るために、朝5時から仕込みを開始。直径34センチの大きなル・クルーゼ鍋で、丁寧に煮込んでいます。実は「チャウダー」という言葉自体が、フランス語で「大鍋」を意味する言葉に由来しているそうです。軽井沢店では、ピーク時には2つの鍋を仕込んでも午前中には完売してしまうほどの人気だったそうです。現在は、御代田店でのみ冬季限定で提供しています。ぜひ寒い朝のひとときに、この特別な一杯を味わってみてください。


相性抜群!ふんわり焼き上げたポップオーバー
キャボットコーヴで提供するもう一つの名物が「ポップオーバー」。日本ではまだ馴染みのない頃から提供し続けている、ニューイングランド地方ならではデニッシュです。そのルーツはイギリスのヨークシャープディングと言われており、ローストビーフの付け合わせとしても親しまれています。


小麦粉、牛乳、卵、たっぷりのバターを使い、発酵させることなく、卵の力だけでじっくりと膨らませます。焼き上がるまでに1時間を要し、ふんわりと柔らかい独特の食感に、やみつきになる方も。クラムチャウダーとの相性も抜群です。
朝の時間を豊かにする、こだわりのコーヒー
美味しい朝食に欠かせないのが、香り高い一杯のコーヒー。キャボットコーヴでは、御代田町のサンガコーヒーさんが、当店のためにブレンドしてくれたオリジナルのコーヒーを提供しています。朝のひとときにふさわしい深みと飲みやすさを兼ね備えた仕上がりです。
朝9時までにご来店いただいたお客様には、2杯目のおかわりが無料になる「アーリーバードスペシャル」を実施しています。11月から3月までの期間限定ですので、この機会にぜひお楽しみください。


朝の澄んだ空気の中、温かいスープと焼きたてのポップオーバー、そして香り高いコーヒーを楽しむ――そんな幸せな時間を、ぜひキャボットコーヴ MUSEUM TERRACEで体験してみてください。
ガーデンキャンドルは、1年を通して、私たちのくらしに彩りを与えてくれます。夏には鮮やかで明るい色彩の植物が、冬には静かで落ち着いた色彩の植物が、あなたの心に優しい温もりを灯してくれることでしょう。
Studio Kyoryu Shopでは、そんなガーデンキャンドルづくりのワークショップを来たる3月1日(土)に開催いたします。ご興味ある方は、ぜひご参加ください。植物の美しさや自然との繋がりを感じられるひとときをお届けします。
— 美しい、と思う植物はありますか?
ガーデンキャンドルづくりで大切なのは、自分自身が「美しい」と感じる素材を選ぶこと。形や色合いから質感まで、目で見て、手に触れて、その植物を感じてみてください。普段は見逃してしまうような、ちょっとした気づきや感じたことは、あなたのガーデンキャンドルを彩る大切な要素の一つになります。
また、植物の配置や素材の組み合わせなど、偶然が生み出す美しさを楽しめる点も、ガーデンキャンドルづくりの醍醐味です。季節ごとに植物が有する個性が共鳴し、思いがけないデザインが生まれる瞬間を、ぜひ体感してみてください。




本イベントでは、Studio Kyoryuが管理している離山などから採集した自然素材をご用意しています。ワークショップを通じて、その土地の息吹を感じることができる点も魅力です。もちろん、お気に入りの植物をご自身で用意いただくことも歓迎です。例えば、夏に華やかに咲き誇る花、秋に拾った紅葉した葉など、思い出の詰まった植物を取り入れれば、きっと特別なキャンドル作品に仕上がることでしょう。

ご自身で素材を用意される場合は、2週間ほど時間をかけて丁寧にしっかりと乾燥させておくのがポイントです。乾燥が甘いとカビが生えてしまうことがあるためです。また、乾燥させるタイミングによって、素材の仕上がりも変化します。その過程も楽しめると、よりガーデンキャンドルづくりを楽しんでいただけると思います。






— 植物たちと向き合う時間
ワークショップの所要時間は約1時間です。季節の植物に触れながら、自分だけのキャンドルを作る時間は、慌ただしい日常を忘れて、心がほどけるようなひとときになると思います。植物の配置や色合いを考えながら、自然と向き合う時間をお楽しみください。
キャンドル作りは自宅でも楽しめますが、材料を揃えたり、底をしっかり固める作業など、少し手間のかかる工程があります。もし、ガーデンキャンドルを季節ごとに楽しむぐらいの頻度でしたら、ワークショップに参加するのがおすすめです。材料の準備や作業のポイントを丁寧にお伝えするので、初めての方でも安心して楽しめます。
小物入れなどインテリアとしても活用できるキャンドル
完成したキャンドルは6~8時間ほど灯すことができます。長時間灯し続けると形が崩れてしまうこともあるので、こまめに使うのがおすすめです。また、使い終わって窪んだキャンドルは、小物入れやインテリアの飾りとして再利用することもできます。一つのキャンドルから生まれる新たな使い方も楽しみの一つです。



炭火と薪火には、それぞれ異なる特徴があります。備長炭のような高密度の炭は、硬質な木材を1000℃以上の高温で炭化させ、不純物を極限まで取り除いたものです。燃焼時間が長く、熱量が強い炭火は、点で素材に熱を加えるため、肉の表面を一気に焼き上げます。その反面、赤身肉のような繊維質の多い素材では、焦げやすく硬くなりやすい性質もあります。


一方、薪火による熾火は、熱が面でやわらかく伝わるのが特長です。赤身肉を焼く際には、この薪火を使うことで表面は軽くサクッと焼き、中の水分を閉じ込めることができるので、焼き上がりの肉からあふれる肉汁が、口いっぱいに広がる至福の味わいを生み出します。私たちが、熾火を選ぶ理由がここにあります。



こだわりは、熾火だけではありません。肉の焼き加減を決めるのに重要なのは、素材と火の状態を見極めること。部位ごとの特徴を考慮し、それぞれの肉に最適な焼き方を追求しています。例えば、赤身が多い部位とサシが多い部位では、火の当て方や焼く時間を調整します。焼いている最中の肉の油の出方まで観察し、最良の状態でお客様に提供できるよう細心の注意を払っています。同じテーブルに提供する場合は、全ての皿が同じ焼き加減になるよう、タイミングを慎重に見極めます。ホールスタッフとの連携もとても大切ですね。
濃厚な赤身と、上品な脂のバランスに優れた黒毛和牛「赤城牛」

やわらかく、それでいて食べ応えのある食感。口溶けの甘さと赤身のしっかりした旨み。STEAK HOUSE Feuでは、黒毛和牛と国産牛の魅力を兼ね備えた赤城牛を使用しています。この赤城牛を生産する鳥山牧場は、創業60周年を迎える日本でも有数の「肉用牛一貫経営牧場」で、生産から加工、販売まで一貫して手掛けており、飼育数は黒毛和牛の雌牛で400頭、全体で1500頭もの規模を誇ります。

鳥山牧場は、単にA5ランクなどの見た目や脂肪交雑の評価を追求するのではなく、「本当に美味しい牛肉」を目指し、血統や育成方法を見極めながら、ステーキという業態に最も適した肉質を追求しています。
赤城牛の魅力は、その穏やかな育成環境にもあります。農場を訪れると、牛たちが穏やかに過ごしている姿に驚かされます。鳴き声が少なく、ストレスのない環境で育てられた牛は、肉質が柔らかく香りも上品です。一般的な出荷前の「無理に太らせる」ような方法を避け、牛にとって自然な成長を重視することで、健康的で安心して食べられる肉を提供しています。
地元産野菜と自然派ワインで、さらなる彩りを
肉料理を引き立てるのは、地元長野県産の野菜たちです。蓮根や里芋、長芋など、季節に応じた野菜を厳選し、地元農家や知り合いの生産者から直接仕入れています。状態や価格を見極めながら毎回買い付けを行い、新鮮な素材をお届けしています。



さらに、1階の「CERCLE plus wine & deli」では、ソムリエが厳選した自然派ワインをラインナップ。肉料理とのペアリングをお楽しみいただけます。


究極の一皿で、特別なひとときを
選び抜かれた赤城牛の豊かな味わいと、熾火で丁寧に焼き上げた料理。そして地元産の新鮮な野菜と、豊富に取り揃えられたワイン。心を込めた一皿をご用意して、お客様をお待ちしております。
身体にすっと馴染む、美味しい珈琲との出会い

埼玉県から愛知県へ移り住み、農業を手伝いながらデザインの仕事もこなしていた頃のこと。日中は畑作業、空いた時間でチラシを制作するような生活を送っていました。そんなある日、友人に誘われて訪れたのが「森の響(おと)」というカフェでした。
そこで出会った珈琲は、それまでの私の常識を覆すものでした。身体にストレスなく浸透していくような、優しく、それでいてしっかりとした味わい。その美味しさに、ただただ衝撃を受けました。
実は以前から喫茶店巡りを楽しむのが好きでしたが、珈琲そのものの味に詳しいわけではありませんでした。それでも、この時の珈琲は特別でした。そのカフェでアルバイトの募集があると知り、迷わず応募。幸運にも採用され、珈琲の世界に本格的に向き合うきっかけを得ました。
–ハンドドリップの奥深さに魅せられて
カフェでの仕事を通じて、珈琲の奥深さを知る日々が始まりました。特にマスターが淹れるハンドドリップの技術には目を見張るものがありました。並べた2杯の珈琲は、どちらも同じ豆を使っているのに、味わいが全く異なる。なぜだろう?どの工程で味の違いが生まれるのだろう?
そんな疑問を抱きながら、自分でもハンドドリップの練習を重ねていきました。お客様に自分の淹れた珈琲をお出しできるようになるまでには、約1年もの時間を費やしました。同じ豆でも、湯温や注ぎ方ひとつで味が大きく変わる。この変化を自分の手でコントロールできるようになると、ますますその魅力に引き込まれていきました。
ハンドドリップの面白さを知った頃から、この楽しさをもっと多くの人に伝えたいという気持ちが芽生えました。


–焙煎がもたらす豆の新たな可能性
焙煎は独学で取り組み始めました。今となってはほぼ出番もなくなりましたが、最初は数百円で購入できる調理器具を改造しながら使用していました。そのままだと豆がうまく転がらず、均等に火が入らないため、トンカチで器具の表面に凹凸をつけるなどの工夫を重ねました。


焙煎は、豆そのものの個性を最大限に引き出す技術です。生豆は硬く、しっかり火を通さないとえぐみが出てしまいます。一方で、豆の特性を見極め、それに合った焙煎を施すことで驚くほど豊かな味わいを引き出すことができます。
例えば、エチオピア産の豆はフルーティーな香りが特徴で、その個性を活かすために浅煎りに仕上げることが多いです。また、焙煎機の特性を理解しながら、浅煎りから深煎りまで、豆ごとの適切なバランスを追求しています。この工程の一つひとつが、私にとっては挑戦であり、楽しみでもあります。
–コーヒーを通じて広がる楽しみ方
コーヒーの歴史は日本ではまだ浅く、お茶に比べると知られていない部分が多いと感じています。豆の焙煎や淹れ方で味がどれだけ変わるのか、雑誌やメディアでは触れられない深い世界が広がっています。それを少しでも多くの人に伝えたい、そんな想いでコーヒー教室を始めました。
初めての方には、道具の選び方や手軽な手法をお伝えし、経験者にはさらに美味しく淹れるためのポイントをお教えします。数字でレシピを語るのではなく、湯温や豆の膨らみ、香りなどを五感で観察しながら淹れる楽しさを共有したいと思っています。

コーヒー教室は不定期で開催しています。興味のある方は、ぜひお気軽に店舗スタッフまでお声がけください。ご一緒に、美味しい珈琲の奥深さを楽しめる時間を過ごせるのを心待ちにしています。
話し手:小林 英里果さん(以下、小林)、Peter Pålssonさん(以下、ペーテル)
聞き手:須長 檀(以下、須長)
須長:今回は、「幸せなデザイン企画」の第一回目のインタビューです。お二人をお迎えでき、大変嬉しく思います。初めてお二人の作品を拝見した際、その豊かな創造性と自由さに一目惚れしました。お二人の創作することへの喜びが、作品からも伝わってきます。
須長:エリカさんのテーマはとても興味深いですね。木工と音を組み合わせるという、これまでにないユニークなコンセプトに驚きました。特に、緊張感あるビジネスシーンで名刺ケースを閉じると「ふいご」の仕組みでプーッと音が鳴るのが最高です。このシリアスな場面と力が抜けるような音のギャップには、スウェーデンらしいユーモアとおしゃれさを感じ、一目でファンになりました。
— 音のなる名刺ケースについて


須長:この名刺ケースで名刺を渡されたら、場が和み、小さな笑いが生まれると思います。僕ならその人をすぐ信用してしまいそうです。制作中のエリカさんが、いたずらっ子が落とし穴を作るようなワクワクを感じている様子が目に浮かびます。やはり、そういったシーンを狙って作られたのでしょうか?
小林:ユニークな音が出るのは、スウェーデンっぽいですよね。パイプオルガンに興味をもっていたこともあって、箱から音が鳴るという仕組みには、ずっと惹かれていました。日用品に音を一つ加えることで生活が楽しくなる。『箱』に『音』を付属させるアイデアは、学生時代から大切にしているコンセプトの一つです。
小林:名刺交換は第一印象が数秒で決まりますが、例えば強面の方がこの名刺ケースを持っていたら、もしかしておしゃれな人かも?と印象が和らぐかもしれませんよね。大人数で名刺を何枚も交換する場面でも、音と一緒ならきっと記憶に残りやすいんじゃないかなって。同時に、空気を和ませるお手伝いができたら嬉しいなと思っています。
須長:単に面白いというわけではなく、精巧にできているからこその音、という点もユーモアがありますよね。そのバランスが、見ていて楽しいです。
須長:音による人と人のつながりを考えた時に、まず浮かんだのは、音楽以前の原始的な人の作り出す音でした。暗闇の中で仲間を呼ぶ口笛。月のない暗い森の中で視覚を奪われ、方向間隔を失ったときに頼れるのは、仲間の鳴らす口笛の音だけ。僕らの先祖にとって光を失う恐怖は僕らが想像するよりももっと大きな事件だったのだと思いますし、その時に聴いた仲間の出す音はさぞかし頼り甲斐があったことだったと思います。
須長:そういった意味で僕らのDNAに刻まれた音楽以前の音には、そういった緊張感の中で聞こえる時こそ、原始の記憶を呼び覚まされる力があるのではないかと思いました。エリカさんにとっての音とはどんなものですか?
小林:子どもの頃の思い出や、昔聞いた音が一瞬で蘇る経験は、多くの人が持っているはずです。私にとって、音は記憶そのものだと思います。
小林:音は材質によって、あるいは寸法によっても変わるので、微調整しながら音をつくっています。最近のものは、指で塞いで音を少し低くするための穴を作ったりもしています。いろいろ試行錯誤しながら、楽しい音を探しています。
— 音の鳴る壁画について
須長:個人的に装置のようなものにとても強く惹かれます。音が出るからといって何かの欲に立つわけではないのですが、その仕組みが視覚化されている。そして仕組みを見ることでその構造が理解できることにある一種の美しさを感じます。
須長:こういった機械の仕組みを美しいと感じるのは、なぜなんでしょう?きっと理解することが美しいと感じるというような秘密の公式が存在するのではないか、とエリカさんのオブジェを拝見して思わずにいられませんでした。エリカさんはどうしてこのオブジェを作ろうと思ったのでしょうか?




小林:最初にパイプオルガンを作ったとき、工房を訪れたお客さんから仕組みについて質問され、一般の人にも理解してもらいたいと考えるようになりました。そこで、メカニックな部分を取り入れ、仕組みがわかるアート作品として楽しめる形を目指しました。当初は「ふいご」を隠すつもりでしたが、音の仕組みを見せることで作品の魅力を伝えたいと思うようになりました。色をつけると、視覚的にも聴覚的にも楽しめる形になりました。
須長:かつてパイプオルガンが全盛期を迎えていた時代、その構造には一国の技術が結集されており、まさに国家の威信を象徴する存在でした。一台のオルガンが、まるでオーケストラのような壮大な音色を奏でられるという点に、大いなるロマンを感じます。その一部を、家庭に取り入れ、目で楽しみ耳で味わえるのは、とても素晴らしいことだと思います。
— パラサイト動物について
須長:ペーテルさんの作品は、1点もののアートピースです。木の箱という概念を楽々と飛び越える作品で、ペーテルさんの自由な想像力に嫉妬さえ覚えます。僕自身、子供のように想像世界の中でデザインをしたいという強い願望があります。できるだけ考えずにフッと浮かんできた得体の知れないものを掴んで作るようにしています。ペーテルさんはあらかじめスケッチをした完成図を作ってから制作するのでしょうか?それとも削りながら形を作っているのでしょうか?


ペーテル:最初は作り始める前に、大体の大きさを決めて、機械で荒削りしています。木材は、プランを立てて順序立てて作らないといけません。自分の気持ちが準備できるまで、その状態で置いておくこともあります。作りながら考えが変わることもあります。その都度、調整しながら完成させることが多いですね。
須長:ペーテルさんの作品は、不思議な存在だと思っています。植物的でもあり、動物的でもあります。生物と無生物の間のような印象があります。
須長:樹木が、一旦死んで木材になる。ペーテルさんは、それを単に可愛いだけではない、リアリティのある生物に作り変えていると思っています。素晴らしいですよね。ペーテルさんの中で、これらの生物は、どんな世界をどのように生きているんですか?
ペーテル:材料に対する敬意は、とても大切なものだと思っています。木材は、一緒に仕事をしているパートナーとでも言いましょうか。当然、私の中で木材は生きています。私の手の中で、動いたり、変形したり、割れることもあります。私の手の中で、木がどう振る舞うのかを観察することは、最終的な形を決める手助けになっています。


ペーテル:この生物の、まるでトランペットのようなこの器官は、どんな働きをしているのか。音をどう吸収するのか。そんなこと考え、生きる姿をイメージしながら作品を作っています。
須長:ペーテルさんの作品には、ストーリーがある。リアリティもあります。見たことない作品がたくさんなので、いつも楽しみにしています。
ペーテル:私は、自分の作品を『ファンタジーの胎児』と表現しています。
須長:お二人のファンタジーの世界から、たくさんの胎児が生まれることを楽しみにしています。

須長:スウェーデンの工芸にはヘムスロイドとコンストハンドベルグがありますがこの二つの違いは何でしょうか?
ペーテル:ヘムスロイドとは、『家庭の手工芸』のことで、手作りで作られた衣服や織物、家道具などの総称です。農家さんが冬の閑散期に副業として行なっていました。コンストハンドベルグは、明確な芸術的コンセプトを持ちながらも高度な技術が求められる工芸を指します。近年では両者が混ざり合う傾向がありますが、かつてはより明確に区別されていました。
須長:豊かな感性と才能を有する作家さんも素晴らしいのですが、その自由な才能でつくったものを理解して購入する生活者が多いのも、スウェーデンの素晴らしいところだと思います。わからないことを楽しむ、わからないところに美しさを見出す文化は、日本とは大きく違うと感じています。
須長:お二人はどちらの国も見ていると思うが、作り手から見た、使う人たちの様子の違いを感じることはありますか?
小林:スウェーデンの人は自宅で過ごす時間が長いので、より居心地の良い空間にしたいんだと思います。例えば壁の色を考えるときに、日本だと無難な白を選ぶ人が多いかもしれません。私たちは、黄色や緑色にしようと思っていました。せっかくだったら、絵を飾ったりタペストリーを吊るして、暖かい空間にしたいよね、とか。ちょっとした『こうしたい』の積み重ねが、モノへの興味の差になってるのかもしれませんね。
ペーテル:スウェーデンには、日本ほど多くのレストランがないこともあって、親戚や友人を家に招いてホームパーティを開く文化が根付いています。自宅をいかに居心地の良い空間にし、訪れた人に喜んでもらうか。スウェーデンの人々が、アートへの関心が高いのは、そのあたりも影響しているかもしれませんね。
須長:スウェーデンのコンストハンドベルグは、富の象徴や投資の対象としてのアートとは異なり、日常の暮らしに寄り添う存在です。家に取り入れられたアートは、鑑賞されるだけでなく、友人との会話のきっかけとなり、空間に美しさと喜びをもたらします。まさにアート本来の姿を体現しており、そこに大きな魅力を感じます。
須長:ラゴムの展示会に来てくださる方にメッセージはありますか?
小林:私たちが作る名刺ケースやリングケースなど、目的がはっきりしているものもありますが、半分くらいは『何のために?』と思われるようなものかもしれません。しかし、それもまた大切なことだと思っています。『これは何だろう?』と感じながら見てもらうだけで十分で、それを無理に発展させる必要はありません。それよりも、作品を通じて新しい気持ちや想像が広がったり、『この生物はどんな生活をしているのだろう?』とか、『この音で誰が楽しんでくれるだろう?』といったファンタジーの世界へ繋がるきっかけになれたら、嬉しいですね。
ペーテル:これまでは機能性を重視した作品が多かったのですが、アート的な表現を追求する楽しさを改めて実感しました。お客様が作品を見て楽しんだり喜んでくれたり、あるいは、自分でも何かつくってみたいと思っていただけたら、とても嬉しいです。

