“ランバージャック”は英語で「木こり」を意味し、その言葉のとおり、もともとは肉体労働に従事する方々が朝からしっかり栄養をとるために考案されたボリューム満点の朝食です。当店ではそのエッセンスを取り入れつつ、日本のお客様の口に合うように調整し、食べごたえがありながらも重すぎないメニューとして仕上げています。

ふんわり優しい甘さ「ミニプレーンパンケーキ」

プレーンヨーグルトを加えて、口どけの良いふんわり食感に

朝食の定番でありながら、一工夫を加えたパンケーキ。アメリカではバターミルク(クリームからバターを作った後に残った液体)を使うのが一般的ですが、代わりにプレーンヨーグルトを加えて、口どけの良いふんわり食感を追求しました。

なお、プレートには通常のシロップが付いていますが、アメリカ・メイン州の農家さんから直接取り寄せている特別なメープルシロップもご用意しています。毎年、3月最終日曜日に解禁日を迎える現地では、まるでワインの出来を語るように今年の味わいを確かめ合うのが恒例です。パンケーキにかけると、カエデの樹液をじっくり煮詰めた豊かな甘みが口の中で広がります。

ボリューム満点「ベーコン・卵・ホームフライ」

「ランバージャックブレックファースト」の主役ともいえるのが、ボリューム感あふれるメインプレート。当店では片山肉店さん(御代田町)のベーコンを使用しており、脂の旨味を逃さぬようにしっとりめに焼いています。アメリカのようにカリカリで召し上がりたい方は遠慮なくお声がけください。

卵は、ちゃたまや(佐久市)の「浅間小町」というブランド卵を厳選。焼き上がりのふっくら感と濃厚なコクが特徴です。付け合わせのホームフライには、じゃがいもをはじめ季節の野菜をたっぷりと使用。インゲンやパプリカ、ルッコラなどの彩り豊かな具材は、そのときどきの新鮮なものを発地市庭(軽井沢町)などから仕入れています。

余韻まで楽しめる「ティーハウスタカノの紅茶」

パンケーキやベーコンの風味にしっかり寄り添う飲み物として、紅茶にもこだわっています。神保町「ティーハウスタカノ」から取り寄せる茶葉は、口あたりがまろやかでありながら深みのある香りが特長です。コーヒーと迷う方もぜひ一度試してみてください。朝9時までにご来店いただいたお客様には、2杯目のおかわりが無料になる「アーリーバードスペシャル」(3月31日まで)を実施しています。

ランバージャックプレートは、“木こりの朝食”にちなんだ力強さを残しつつも、素材選びや味付け、焼き加減などにさりげないこだわりを散りばめた一皿です。忙しい朝でも、ちょっとだけ心がほどけるような美味しさを、ぜひお楽しみください。

森の息吹をそのまま飲み物に――そんなユニークな発想から生まれた「KAMOSHIKA Drinks」は、軽井沢・離山の森で採れる木の香りを抽出し、ほぼすべての原材料を地元の自然から得るという、まさに軽井沢の“森を飲む”ドリンクです。その魅力や背景には、地域の環境再生への思いと、人と自然が共存する新たなかたちを模索するプロジェクト「TŌGE(トウゲ)」の活動があります。本記事では、「KAMOSHIKA Drinks」が生まれた経緯やこだわり、そして森と人とのつながりを深めるために取り組まれている試みを紹介します。

森を飲むという発想――KAMOSHIKA Drinksの挑戦

「KAMOSHIKA Drinks」は、軽井沢・離山の森で採れる木を主原料とするユニークな飲料です。カラマツ・アカマツ・モミ・アブラチャン・ヒノキという5種類の樹木から香りを抽出し、砂糖や水、ごく少量の柑橘果汁のみで仕上げることで、水と砂糖を除く原料の99.9%が地元由来の素材から成り立っています。この5種類のブレンドは、離山の植生バランスそのものを反映しており、間伐が必要なカラマツが最も多く含まれています。

原料収穫は、離山の森を手入れするランドスケープデザイナー「Studio Kyoryu」が担当し、工場や蒸留所での検査を経て生産されていますが、工業的な大量生産ではありません。森との対話のなかで得られる資源を活かすというアナログなアプローチが、「KAMOSHIKA Drinks」最大の特徴といえます。

「TŌGE」が紡ぐ、人と森、人工物の新たな関係性

このユニークな飲料を生み出したのは、建築家の上野有里紗さんと現代アート作家の立石従寛さんが中心となって始めたプロジェクト「TŌGE」です。TŌGEは、私たちの暮らしを「食」「育」「住」の3つに分解し、自然教育プログラムやアーティストインレジデンスなどを手がけています。いわゆる食品メーカーではなく、あくまで森を守り活かすための実験を重ねるクリエイティブチームです。

TŌGEの活動のベースとなるのが、かつて明治以降にに人為的に植林されたカラマツ林が広がる離山の森。ここのなかの1つのエリアでは、定期的に間伐をすることで森に光が差し込み、Studio Kyroryuの手入れもあって、近年はもともと自生していた野草が芽吹き、昆虫や鳥が増えるなど生態系が変化していく過程を実際に目の当たりにすることができます。資源を創造的に再生し、新たな価値を生み出すことで、山全体の生態系がよくなっていく、より健康な形になっていくことを、TŌGEは目指しています。

「木食」という発想――体に取り込むことで自然と一体に

TŌGEが着目したのは、間伐材をチップや木材に加工するだけでなく、「食」という形で取り入れることでした。木は通常、食材として認識されることはほとんどありません。しかし、飲み物として体に取り込めば、木と人との関係はがらりと変わります。「自分が口にする」というリアルな体験を通じて、森林がいかに身近な存在かを感じられるようになります。

また、自然保護の観点から見ても、間伐で出る木を活用することは森の健全な育成に欠かせません。経済的にも、飲料というプロダクトであれば世界中のだれもが手に取りやすく、市場を通じて収益が生まれれば、森の再生や管理を続けるための資金にもなります。「木を飲む」という発想は、サステナブルな森林活用を実践するうえでの大きなヒントになっています。

普段の生活ではあまり食べ物として意識しない「木」という存在を、自分の体に取り込む――それだけで自然との関係性が変わるかもしれません。環境問題や森林保全と聞くと難しく思いがちですが、まずはこのシロップを炭酸で割って森の香りを楽しむことから、始めてみませんか。

KAMOSHIKA Syrupレシピ

森林サングリア

森林サングリア

  • 材料(コップ1杯分)
    • フォレストシロップ:大さじ2杯 (30ml)
    • ゆず酒:大さじ1 (15ml)
    • サングリア:大さじ6 (90ml)
    • オレンジカット:3 粒
    • ミント:少量
  • 作り方
    • 容器にフォレストシロップ・ゆず酒・サングリア・オレンジを入れて混ぜる
    • レンジアップ
    • ミントを添えて完成

KAMOSHIKA Drinks取扱店

KAMOSHIKA Drinksは、以下の店舗で購入またはお楽しみいただけます。
★の店舗では、オリジナルカモシカカクテルをお楽しみいただけます。

・オンラインショップ(https://shop.toge.art/)
・MMoP|Studio Kyoryu Shop(長野県、御代田町)
・MMoP|CERCLE plus wine & deli(長野県、御代田町)
・旧軽井沢ホテル音羽ノ森BAR三笠THE BASE(長野県、軽井沢町)★
・THE BASE(長野県、軽井沢町)
・レジーナリゾート旧軽井沢|レストラン(長野県、軽井沢町)
・Zenagi(長野県、南木曽町)
・SAIME(東京都、神楽坂)

(※店舗によっては取り扱い状況が変わる場合がありますので、ご利用の際は事前にお問い合わせいただくことをおすすめします。)

今月のテーマはチョコレート。なめらかな口どけ、奥深い香り、そして産地ごとに異なる個性。そのひとかけらが、いつも生活にちょっとした幸せをもたらしてくれます。美味しいのはもちろん、その背景にある物語や作り手の想いにも触れながら、CERCLE plus wine & deliで取り扱う特別なチョコをご紹介します。

世界15か国、カカオ生産国の旅から生まれた、こだわりのチョコレート

チョコレートの原料となるカカオの産地を巡り、その土地の風土や生産者と深く関わりながら最高品質のカカオを追い求める。それが「カカオハンターズ®」の名の由来です。

創設者である小方真弓氏とカルロス・ベラスコ氏は、2009年にコロンビアのカカオの可能性に魅せられ、現地のカカオ農家と協力しながら高品質なカカオ豆の生産を開始しました。二人の理念は「カカオが育つ土地でチョコレートを創る」こと。太陽の日差し、雨の雫のきらめき、揺れる緑の狭間で、人々のたゆまぬ手仕事によって、その味わいをその土地から作っています。

CACAO HUNTERS JAPANより(https://cacaohunters.jp/)

コロンビア南部の町ポパヤンに設立されたチョコレート工房では、地元のスタッフが伝統技術と現代の研究を融合させながら、カカオの香りや味わいを最大限に引き出したチョコレートを生み出しています。カカオへの愛と生産者への想いがぎゅっと詰まった、やさしくて、アカデミックで、繊細で、奥深い香り。長いながい旅路の、そのひとかけらをぜひお楽しみください。

サシェ トゥマコ(左)、サシェ シエラネバダ(右)

サシェ トゥマコ

コロンビア南西部・ナリーニョ県トゥマコ産カカオ82%のダークチョコレート。焙煎カカオの香ばしさに、ライムやスパイスの爽やかな香りが調和。濃厚な苦みと芳醇なコクが広がる、大人向けの一枚です。

サシェ シエラネバダ

コロンビア北部・カリブ海沿いのカカオ64%を使用。赤いフルーツや糖蜜の甘酸っぱい香りが特徴で、ロゼワインを思わせる華やかな風味。フルーティーなカカオの魅力を楽しめる一枚です。

カカオ農園のバニラチョコ(左)、CAFE DE EDI(中)、ピリリと香るの黒胡椒チョコ(右)

カカオ農園のバニラチョコ

コロンビアのカカオ農園で発見されたバニラを使用。バニラの優しい甘さとカカオの深いコクが調和し、ナチュラルで上品な味わいに仕上がっています。

CAFE DE EDI

カカオハンターズの工房スタッフ、エディの家族が育てた希少なコーヒー豆「タビ」を使用。カカオの濃厚な風味に、挽きたてのコーヒーの甘く芳醇な香りが広がる、大人のための一枚です。

ピリリと香るの黒胡椒チョコ

トゥマコ産のカカオと黒胡椒を組み合わせた個性派チョコ。カカオの深みある苦みと、スパイシーな香りが絶妙に絡み合い、刺激的で洗練された味わいを楽しめます。

時を超えて受け継がれる、素朴で奥深いチョコレート

チョコレートがまだ嗜好品ではなく、薬やエネルギー源として食されていた時代。その原点ともいえる製法が、イタリア・シチリア島の町モディカに残っています。「古代チョコレート」は、カカオマスと砂糖のみという極めてシンプルなレシピで作られ、乳化剤やカカオバターを一切加えない、素朴で力強い味わいが特徴です。

この伝統のチョコレートは、アステカ帝国からスペインを経由し、16世紀にシチリアへと伝わりました。モディカにあるアンティカ・ドルチェリア・ボナイユートは、1880年創業の老舗で、この歴史ある製法を今に受け継いでいます。チョコレートは低温で加工されるため、カカオの香りが豊かに残り、砂糖の結晶がシャリシャリとした独特の食感を生み出します。

アンティカ・ドルチェリア・ボナイユートの「ロバミルク」(左端)、「ペルー」(中左)、「ビアンコ」(中右)、マンダリンオレンジ(右端)

アンティカ・ドルチェリア・ボナイユート チョコレート”ロバミルク”

栄養価の高いロバのミルクを10%使用したチョコレート。母乳に近い成分を含み、消化が良いため、牛乳が苦手な方にもおすすめです。ボナイユートならではのザクザクした食感と、ほんのりクリーミーで優しい甘さが魅力。カカオ分65%。

アンティカ・ドルチェリア・ボナイユート チョコレート”ペルー”

カカオの最高品種・クリオロ種100%を使用した、トロピカルフルーツのような甘酸っぱさが特徴のチョコレート。ペルー産ならではのフルーティーな香りと、穏やかな苦みが絶妙なバランスを生み出しています。カカオ分65%。

アンティカ・ドルチェリア・ボナイユート チョコレート”ホワイトチョコレート ビアンコ”

ボナイユート特有のザクザクした食感を活かした、シンプルで奥深いホワイトチョコレート。余分なカカオバターを加えず、すっきりとした後味とクリーミーなミルク感が楽しめます。ホワイトチョコレートの新たな魅力を味わえる一枚。

アンティカ・ドルチェリア・ボナイユート チョコレート”マンダリンオレンジ

シチリア産マンダリンオレンジピールを練り込んだ、爽やかな香りが広がるチョコレート。甘すぎず、控えめな柑橘の風味がカカオの香りを引き立てます。カカオ分65%のビターチョコレートとの調和が絶妙な仕上がり。

チョコレートと楽しむ、甘く芳醇な香りのワイン

チョコレートの奥深い味わいに寄り添う一本として、おすすめの1本。イタリア産の極甘口白ワイン「クアルティチェッロ ストラドーラ」。

華やかな香りを持つマルヴァジア・ディ・カンディア種を使用し、収穫後に約3ヶ月陰干しすることで、凝縮した果実味と複雑な旨みを生み出しています。発酵後はノンフィルターで仕上げ、ナチュラルな味わいを楽しめます。

熟したドライフルーツや蜂蜜を思わせる甘く芳醇な香りと、自然な酸味が調和した味わいは、濃厚なカカオの風味と相性抜群です。

特別なチョコレートを、ぜひ店頭で。

ひとかけらのチョコレートに込められた、カカオの物語。国境を越え、時を超えて受け継がれてきた味わいを、ぜひ一度お試しください。

CERCLE plus wine & deli では、今回ご紹介したチョコレートや、チョコレートと相性の良いワインを店頭で販売しています。お気に入りの一枚を見つけに、ぜひお立ち寄りください。

聞き手:須長 檀(左)、語り手:宮脇 弘幸さん(中)、高橋 華菜さん(右)

話し手:宮脇 弘幸さん(以下、宮脇)、高橋 華菜さん(以下、高橋)
聞き手:須長 檀(以下、須長)

須長:今回は、「幸せなデザイン企画」の第二回目のインタビューです。作家さんたちが手がける、個性豊かな子ども椅子が一堂に会する「はぐくむ工芸 子ども椅子展」を手がけるNPO法人 松本クラフト推進協会の宮脇さんと、高橋さんのお二人に、その背景や想いについて、じっくりとお話を伺いたいと思います。

松本市街全体を会場にしたクラフトの祭典「工芸の五月」

須長:「はじめに、子ども椅子展の企画・運営の母体にもなっている『工芸の五月』について教えてください。

宮脇:「はい。長野県松本市で毎年5月に開催される『工芸の五月』は、街全体を会場にしたクラフトの祭典です。歴史ある建物や公園、美術館、ギャラリーなどを舞台に、工芸作品の展示や販売、ワークショップ、作家との交流イベントが行われます。」

工芸の五月HP(https://matsumoto-crafts-month.com/)より

宮脇:「このイベントの目的は、工芸をより身近なものとして感じてもらうこと。松本は伝統的な木工や家具づくりが盛んな地域であり、そこに新しい感性を持つ作家たちが加わることで、多様なものづくりの文化が育まれています。工芸の五月は、そうした工芸の魅力を広く発信し、作り手と使い手がつながる場を提供しています。」

宮脇:「運営を担うのが、工芸の五月実行委員会と、その事務局を務めるNPO法人の松本クラフト推進協会。市内のギャラリーや美術館、商店街、企業など、多くの団体が協力し合いながら、松本の工芸文化を支えています。こうした活動の一環として、『はぐくむ工芸 子ども椅子展』や『クラフトフェアまつもと』など、さまざまなプロジェクトが展開されています。」

宮脇:「工芸の五月は単なる展示会ではなく、松本という街の魅力そのものを体感できるイベントです。作り手の想いや、長く使い続けられるものの価値を、訪れた人々に伝える場となっています。」


工芸を日常に—美と暮らしを結ぶ活動

須長:「工芸の五月で関わる工芸作家さんは特定の組織に所属しているのではなく、プロジェクトごとに関わっていく形なんですね。」

宮脇:「そうですね。私たちは“美と暮らしを結ぶ”というテーマを掲げ、工芸を日常に取り入れる機会を作っています。今回の『はぐくむ工芸 子ども椅子展』の他にも、お酒と工芸品を楽しむ『ほろ酔い工芸展』や、工芸と彫刻の狭間を漂う『異形の宴』といったイベントを行い、多様な視点から工芸を発信しています。企画やイベントによって、関わっていただく作家さんたちも様々です。」

高橋:「それ以外にも単発の企画を積極的にやっていますね。例えば、去年は大きな家具と小物を組み合わせた展示をしたり、住宅の壁の凹みにぴったり収まるサイズの作品を企画したりしました。そのときどきで、新しい試みを考えています。」


「はぐくむ工芸 子ども椅子展」とは

須長:「子ども椅子展は長く続いている企画のようですが、どのような経緯で始まったのでしょうか?」

宮脇:「もともとは、松本市にある老舗ギャラリー『グレイン・ノート』のオーナーであり作家でもある指田哲生さんが始めた『子ども椅子展』がきっかけです。その後、松本市からの要望があり、2012年から松本市美術館で『はぐくむ工芸 子ども椅子展』として開催されるようになりました。」

宮脇:「美術館の中庭に芝生を敷いて、子どもたちが実際に座って試せるようにしていました。自然の中で工芸に触れる機会を作るという意味でも、すごくいい環境だったんです。ただ、天候に左右されやすいので、最近では屋内での開催も増えています。」

高橋「一昨年は、御代田のMMoPで開催されたデザインイベントに参加し、芝生ゾーンをお借りしました。春の爽やかな雰囲気とはまた違い、秋の芝生と紅葉した木々が美しく、季節ならではの魅力がありました。『かわいい椅子には旅をさせよ』というテーマにもぴったりで、風景としても絵になる展示になりました。」

高橋「昨年からは、松本市の『信毎メディアガーデン』での開催になりました。屋内になったことで天候の心配がなくなり、より多くの人に見てもらえるようになっています。会場に来た子どもたちは、並べられた椅子を、端から順に座っていてて、座り心地を確かめていました。あるところに来ると、止まるという。あ、この椅子だって。そこで受注という形もできるので」


「可愛いこども(椅子)には、旅させよ」

須長:「最近では、この展示を“出張”する形で全国に広げているそうですね?」

「可愛い子ども椅子には、旅させよ」について語る宮脇さん

宮脇:「はい。“かわいい子(椅子)には旅をさせよ”という考えのもと、椅子たちを全国に連れて行き、より多くの人に見てもらう活動を始めました。これまでに立川や博多にも行きましたし、今後は東京や横浜方面にも展開していきたいと考えています。各地を巡ることで、より多くの方にこども椅子の魅力を知ってもらえるのがうれしいですね。」

須長:「全国を巡ることで、こども椅子にどんな変化が生まれましたか?」

宮脇:「作家さんたちも毎年新作を作るので、デザインが少しずつ進化していきます。もともとは木工作家が中心でしたが、最近は(須長さんのような)デザイナーも加わり、発想の幅が広がっています。伝統的な技法を活かしながらも、新しい試みが増えてきているのが面白いですね。」

高橋「展示を重ねることで、”松本市の美術館でやってますよね”と認知されるようになってきました。この企画に合わせて新作を作る作家さんも増えていますし、新しい作家さんもどんどん加わっています。最初は木工作家が中心でしたが、今ではデザイナーさんも関わるようになり、“デザイナーが作るこども椅子”という新しい視点が生まれていますね。」

須長がデザインした、もふもふの椅子

高橋:「実際に、以前はシンプルなデザインの椅子が多かったですが、最近は動物の形をしたものや、モフモフした素材を取り入れたものなど、遊び心のある作品も増えてきました。こども椅子自体がどんどん進化しているのを感じます。」


世代を超えて受け継がれる椅子

宮脇:「私たちもそうですが、作家さんたちも、自分の作った椅子をずっと大切に使ってもらいたいと思っています。修理も請け負うので、一生寄り添ってほしいと。」

宮脇:「最初は、おじいちゃんがお孫さんに贈り。お孫さんが成長して使えなくなったら、今度はおじいちゃんに戻して玄関椅子として使ったり。それが、また次のお孫さんへと受け継がれていくような。そんな世代を超えた長い時間の中で、たくさんの物語が生まれる椅子になればいいなと思っています。」

須長:「ヴィンテージのアンティークショップで見かける子ども椅子には、何世代も使い続けられた証として、3人くらいの名前が彫られていることもあります。そんな風に、この椅子も長く愛されてほしいですね。」

宮脇:「こども椅子たちと共に、私たちの事業も成長させて、これからも続けていきたいと思っています。」

須長:「すごく素敵ですね。受注生産が基本とのことですが、子どもたちにとっても、作家さんにとっても特別な作品になりそうです。」

宮脇:「はい。作家さんにとっても、1年に1回この展示でお客さんが椅子を選ぶ様子を見ることが貴重な機会になっています。“こんな風に使われているんだ”と実感し、それを次の作品に生かすことで、椅子も年々進化しているんです。」


作家の挑戦の場としての子ども椅子展

須長:「この展示会は、工芸作家にとってどのような場になっていますか?」

宮脇:「子ども椅子だけを集めた展示というのは、とても珍しいんです。椅子のデザイン自体がニッチな分野ですが、特に子ども椅子となると、さらに市場も小さくなります。大人用の椅子と同じ手間やプロセスが必要なのに、価格を抑えなければならず、しかも子どもが成長すると使えなくなってしまう。そういった理由もあるからです。」

高橋:「子ども椅子専門の作家さんというのはいなくて、普段は小物を作る作家さんがこの展示のために椅子に挑戦したり、逆に椅子専門の作家さんが小物を作ったりするんです。そうした挑戦の場になっているのが、この展示の面白いところですね。」

宮脇:「この展示をきっかけに、作家さんが『子ども椅子をつくる楽しさ』を感じてくれたら、と思っています。子どもが実際に座っている姿を見たり、家族と一緒に選んでもらったりすることで、ものづくりの喜びをより実感してもらえたらうれしいですね。同時に、作家さんの存在や仕事を知ってもらう機会になればと考えています。」

高橋:「今回の展示では、普段作っている小物と、その作家さんが手掛けた子ども椅子が並んでいるものもあります。やはり、作家さんの個性は椅子にも表れていて、それを見比べるのがとても楽しいです。」

宮脇:「この展示の影響で、作家さん同士の交流も生まれていますね。普段は小物を作っている作家さんが、今回の展示をきっかけに初めて子ども椅子を作ってみたり、逆に家具を専門にする作家さんが小物づくりに挑戦したり。それによって、互いの作品を知る機会が増え、新しい発想を得たり、コラボレーションにつながることもあります。作家同士の刺激になる場としても、とても価値があると思います。」

作家さんが作ったクマの可愛さを語る、高橋さん

須長:「本日は貴重なお話をありがとうございました。ものづくりの背景や想いを知ることで、こども椅子展がより特別なものに感じられました。」


こども椅子たちに会いに来てください

世代を超えて受け継がれるこども椅子たち。作り手の想いと、使い手の物語が織りなすこの展示では、実際に手に取り、座って、ものづくりの温かさを感じていただけます。

今年も「かわいい椅子には旅をさせよ from 松本」が”lagom”にて開催されます。プレ展示では、一足先にこども椅子たちを紹介。本展示では、さらに多くの作品が集まり、作家たちのこだわりや個性が光る椅子を実際に体験することができます。

家族で一緒に、お気に入りの椅子を見つける時間を楽しんでみませんか? こども椅子たちとともに、会場でお待ちしております。

冬の寒さが深まる季節、体をじんわりと温めてくれるスープは何よりのご馳走。キャボットコーヴ MUSEUM TERRACEでは、お客様のリクエストに応え、11月から3月の間、「本日のスープ」を日替わりでご用意しています。その中でも特に人気なのが、アメリカ東海岸・ニューイングランド地方の伝統料理「クラムチャウダー」です。

本場のクラムチャウダーにはホンビノス貝が使われることが多いですが、キャボットコーヴでは国産のアサリを贅沢に使用。クリーミーなスープにホクホクのジャガイモ、野菜、アサリの旨味が溶け合い、心までほっとする味わいです。「50年前にボストンで食べたクラムチャウダーを思い出す」と言うお客さんもいるそうです。

クリーミーなスープに、サクサクのクラッカーを添えて

この一杯を作るために、朝5時から仕込みを開始。直径34センチの大きなル・クルーゼ鍋で、丁寧に煮込んでいます。実は「チャウダー」という言葉自体が、フランス語で「大鍋」を意味する言葉に由来しているそうです。軽井沢店では、ピーク時には2つの鍋を仕込んでも午前中には完売してしまうほどの人気だったそうです。現在は、御代田店でのみ冬季限定で提供しています。ぜひ寒い朝のひとときに、この特別な一杯を味わってみてください。

相性抜群!ふんわり焼き上げたポップオーバー

キャボットコーヴで提供するもう一つの名物が「ポップオーバー」。日本ではまだ馴染みのない頃から提供し続けている、ニューイングランド地方ならではデニッシュです。そのルーツはイギリスのヨークシャープディングと言われており、ローストビーフの付け合わせとしても親しまれています。

小麦粉、牛乳、卵、たっぷりのバターを使い、発酵させることなく、卵の力だけでじっくりと膨らませます。焼き上がるまでに1時間を要し、ふんわりと柔らかい独特の食感に、やみつきになる方も。クラムチャウダーとの相性も抜群です。

朝の時間を豊かにする、こだわりのコーヒー

美味しい朝食に欠かせないのが、香り高い一杯のコーヒー。キャボットコーヴでは、御代田町のサンガコーヒーさんが、当店のためにブレンドしてくれたオリジナルのコーヒーを提供しています。朝のひとときにふさわしい深みと飲みやすさを兼ね備えた仕上がりです。

朝9時までにご来店いただいたお客様には、2杯目のおかわりが無料になる「アーリーバードスペシャル」を実施しています。11月から3月までの期間限定ですので、この機会にぜひお楽しみください。

朝の澄んだ空気の中、温かいスープと焼きたてのポップオーバー、そして香り高いコーヒーを楽しむ――そんな幸せな時間を、ぜひキャボットコーヴ MUSEUM TERRACEで体験してみてください。

ガーデンキャンドルは、1年を通して、私たちのくらしに彩りを与えてくれます。夏には鮮やかで明るい色彩の植物が、冬には静かで落ち着いた色彩の植物が、あなたの心に優しい温もりを灯してくれることでしょう。

Studio Kyoryu Shopでは、そんなガーデンキャンドルづくりのワークショップを来たる3月1日(土)に開催いたします。ご興味ある方は、ぜひご参加ください。植物の美しさや自然との繋がりを感じられるひとときをお届けします。

— 美しい、と思う植物はありますか?

ガーデンキャンドルづくりで大切なのは、自分自身が「美しい」と感じる素材を選ぶこと。形や色合いから質感まで、目で見て、手に触れて、その植物を感じてみてください。普段は見逃してしまうような、ちょっとした気づきや感じたことは、あなたのガーデンキャンドルを彩る大切な要素の一つになります。

また、植物の配置や素材の組み合わせなど、偶然が生み出す美しさを楽しめる点も、ガーデンキャンドルづくりの醍醐味です。季節ごとに植物が有する個性が共鳴し、思いがけないデザインが生まれる瞬間を、ぜひ体感してみてください。

本イベントでは、Studio Kyoryuが管理している離山などから採集した自然素材をご用意しています。ワークショップを通じて、その土地の息吹を感じることができる点も魅力です。もちろん、お気に入りの植物をご自身で用意いただくことも歓迎です。例えば、夏に華やかに咲き誇る花、秋に拾った紅葉した葉など、思い出の詰まった植物を取り入れれば、きっと特別なキャンドル作品に仕上がることでしょう。

Studio Kyoryuが管理している離山

ご自身で素材を用意される場合は、2週間ほど時間をかけて丁寧にしっかりと乾燥させておくのがポイントです。乾燥が甘いとカビが生えてしまうことがあるためです。また、乾燥させるタイミングによって、素材の仕上がりも変化します。その過程も楽しめると、よりガーデンキャンドルづくりを楽しんでいただけると思います。

— 植物たちと向き合う時間

ワークショップの所要時間は約1時間です。季節の植物に触れながら、自分だけのキャンドルを作る時間は、慌ただしい日常を忘れて、心がほどけるようなひとときになると思います。植物の配置や色合いを考えながら、自然と向き合う時間をお楽しみください。

キャンドル作りは自宅でも楽しめますが、材料を揃えたり、底をしっかり固める作業など、少し手間のかかる工程があります。もし、ガーデンキャンドルを季節ごとに楽しむぐらいの頻度でしたら、ワークショップに参加するのがおすすめです。材料の準備や作業のポイントを丁寧にお伝えするので、初めての方でも安心して楽しめます。

小物入れなどインテリアとしても活用できるキャンドル

完成したキャンドルは6~8時間ほど灯すことができます。長時間灯し続けると形が崩れてしまうこともあるので、こまめに使うのがおすすめです。また、使い終わって窪んだキャンドルは、小物入れやインテリアの飾りとして再利用することもできます。一つのキャンドルから生まれる新たな使い方も楽しみの一つです。

Studio Kyoryu Shopで販売しているガーデンキャンドル

炭火と薪火には、それぞれ異なる特徴があります。備長炭のような高密度の炭は、硬質な木材を1000℃以上の高温で炭化させ、不純物を極限まで取り除いたものです。燃焼時間が長く、熱量が強い炭火は、点で素材に熱を加えるため、肉の表面を一気に焼き上げます。その反面、赤身肉のような繊維質の多い素材では、焦げやすく硬くなりやすい性質もあります。

一方、薪火による熾火は、熱が面でやわらかく伝わるのが特長です。赤身肉を焼く際には、この薪火を使うことで表面は軽くサクッと焼き、中の水分を閉じ込めることができるので、焼き上がりの肉からあふれる肉汁が、口いっぱいに広がる至福の味わいを生み出します。私たちが、熾火を選ぶ理由がここにあります。

こだわりは、熾火だけではありません。肉の焼き加減を決めるのに重要なのは、素材と火の状態を見極めること。部位ごとの特徴を考慮し、それぞれの肉に最適な焼き方を追求しています。例えば、赤身が多い部位とサシが多い部位では、火の当て方や焼く時間を調整します。焼いている最中の肉の油の出方まで観察し、最良の状態でお客様に提供できるよう細心の注意を払っています。同じテーブルに提供する場合は、全ての皿が同じ焼き加減になるよう、タイミングを慎重に見極めます。ホールスタッフとの連携もとても大切ですね。

濃厚な赤身と、上品な脂のバランスに優れた黒毛和牛「赤城牛」

黒毛和牛と国産牛の魅力を兼ね備えた赤城牛

やわらかく、それでいて食べ応えのある食感。口溶けの甘さと赤身のしっかりした旨み。STEAK HOUSE Feuでは、黒毛和牛と国産牛の魅力を兼ね備えた赤城牛を使用しています。この赤城牛を生産する鳥山牧は、創業60周年を迎える日本でも有数の「肉用牛一貫経営牧場」で、生産から加工、販売まで一貫して手掛けており、飼育数は黒毛和牛の雌牛で400頭、全体で1500頭もの規模を誇ります。

鳥山畜産食品|鳥山牧場 公式HP

鳥山牧場は、単にA5ランクなどの見た目や脂肪交雑の評価を追求するのではなく、「本当に美味しい牛肉」を目指し、血統や育成方法を見極めながら、ステーキという業態に最も適した肉質を追求しています。

赤城牛の魅力は、その穏やかな育成環境にもあります。農場を訪れると、牛たちが穏やかに過ごしている姿に驚かされます。鳴き声が少なく、ストレスのない環境で育てられた牛は、肉質が柔らかく香りも上品です。一般的な出荷前の「無理に太らせる」ような方法を避け、牛にとって自然な成長を重視することで、健康的で安心して食べられる肉を提供しています。

地元産野菜と自然派ワインで、さらなる彩りを

肉料理を引き立てるのは、地元長野県産の野菜たちです。蓮根や里芋、長芋など、季節に応じた野菜を厳選し、地元農家や知り合いの生産者から直接仕入れています。状態や価格を見極めながら毎回買い付けを行い、新鮮な素材をお届けしています。

熾火でゆっくりと火を入れて焼き上げた野菜

さらに、1階の「CERCLE plus wine & deli」では、ソムリエが厳選した自然派ワインをラインナップ。肉料理とのペアリングをお楽しみいただけます。

究極の一皿で、特別なひとときを

選び抜かれた赤城牛の豊かな味わいと、熾火で丁寧に焼き上げた料理。そして地元産の新鮮な野菜と、豊富に取り揃えられたワイン。心を込めた一皿をご用意して、お客様をお待ちしております。

身体にすっと馴染む、美味しい珈琲との出会い

埼玉県から愛知県へ移り住み、農業を手伝いながらデザインの仕事もこなしていた頃のこと。日中は畑作業、空いた時間でチラシを制作するような生活を送っていました。そんなある日、友人に誘われて訪れたのが「の響(おと)」というカフェでした。

そこで出会った珈琲は、それまでの私の常識を覆すものでした。身体にストレスなく浸透していくような、優しく、それでいてしっかりとした味わい。その美味しさに、ただただ衝撃を受けました。

実は以前から喫茶店巡りを楽しむのが好きでしたが、珈琲そのものの味に詳しいわけではありませんでした。それでも、この時の珈琲は特別でした。そのカフェでアルバイトの募集があると知り、迷わず応募。幸運にも採用され、珈琲の世界に本格的に向き合うきっかけを得ました。

–ハンドドリップの奥深さに魅せられて

カフェでの仕事を通じて、珈琲の奥深さを知る日々が始まりました。特にマスターが淹れるハンドドリップの技術には目を見張るものがありました。並べた2杯の珈琲は、どちらも同じ豆を使っているのに、味わいが全く異なる。なぜだろう?どの工程で味の違いが生まれるのだろう?

そんな疑問を抱きながら、自分でもハンドドリップの練習を重ねていきました。お客様に自分の淹れた珈琲をお出しできるようになるまでには、約1年もの時間を費やしました。同じ豆でも、湯温や注ぎ方ひとつで味が大きく変わる。この変化を自分の手でコントロールできるようになると、ますますその魅力に引き込まれていきました。

ハンドドリップの面白さを知った頃から、この楽しさをもっと多くの人に伝えたいという気持ちが芽生えました。

–焙煎がもたらす豆の新たな可能性

焙煎は独学で取り組み始めました。今となってはほぼ出番もなくなりましたが、最初は数百円で購入できる調理器具を改造しながら使用していました。そのままだと豆がうまく転がらず、均等に火が入らないため、トンカチで器具の表面に凹凸をつけるなどの工夫を重ねました。

焙煎は、豆そのものの個性を最大限に引き出す技術です。生豆は硬く、しっかり火を通さないとえぐみが出てしまいます。一方で、豆の特性を見極め、それに合った焙煎を施すことで驚くほど豊かな味わいを引き出すことができます。

例えば、エチオピア産の豆はフルーティーな香りが特徴で、その個性を活かすために浅煎りに仕上げることが多いです。また、焙煎機の特性を理解しながら、浅煎りから深煎りまで、豆ごとの適切なバランスを追求しています。この工程の一つひとつが、私にとっては挑戦であり、楽しみでもあります。

–コーヒーを通じて広がる楽しみ方

コーヒーの歴史は日本ではまだ浅く、お茶に比べると知られていない部分が多いと感じています。豆の焙煎や淹れ方で味がどれだけ変わるのか、雑誌やメディアでは触れられない深い世界が広がっています。それを少しでも多くの人に伝えたい、そんな想いでコーヒー教室を始めました。

初めての方には、道具の選び方や手軽な手法をお伝えし、経験者にはさらに美味しく淹れるためのポイントをお教えします。数字でレシピを語るのではなく、湯温や豆の膨らみ、香りなどを五感で観察しながら淹れる楽しさを共有したいと思っています。

じっくり観察しながら、より美味しい珈琲を淹れる

コーヒー教室は不定期で開催しています。興味のある方は、ぜひお気軽に店舗スタッフまでお声がけください。ご一緒に、美味しい珈琲の奥深さを楽しめる時間を過ごせるのを心待ちにしています。

話し手:小林 英里果さん(以下、小林)、Peter Pålssonさん(以下、ペーテル)
聞き手:須長 檀(以下、須長)

須長:今回は、「幸せなデザイン企画」の第一回目のインタビューです。お二人をお迎えでき、大変嬉しく思います。初めてお二人の作品を拝見した際、その豊かな創造性と自由さに一目惚れしました。お二人の創作することへの喜びが、作品からも伝わってきます。

須長:エリカさんのテーマはとても興味深いですね。木工と音を組み合わせるという、これまでにないユニークなコンセプトに驚きました。特に、緊張感あるビジネスシーンで名刺ケースを閉じると「ふいご」の仕組みでプーッと音が鳴るのが最高です。このシリアスな場面と力が抜けるような音のギャップには、スウェーデンらしいユーモアとおしゃれさを感じ、一目でファンになりました。

— 音のなる名刺ケースについて

須長:この名刺ケースで名刺を渡されたら、場が和み、小さな笑いが生まれると思います。僕ならその人をすぐ信用してしまいそうです。制作中のエリカさんが、いたずらっ子が落とし穴を作るようなワクワクを感じている様子が目に浮かびます。やはり、そういったシーンを狙って作られたのでしょうか?

小林:ユニークな音が出るのは、スウェーデンっぽいですよね。パイプオルガンに興味をもっていたこともあって、箱から音が鳴るという仕組みには、ずっと惹かれていました。日用品に音を一つ加えることで生活が楽しくなる。『箱』に『音』を付属させるアイデアは、学生時代から大切にしているコンセプトの一つです。

小林:名刺交換は第一印象が数秒で決まりますが、例えば強面の方がこの名刺ケースを持っていたら、もしかしておしゃれな人かも?と印象が和らぐかもしれませんよね。大人数で名刺を何枚も交換する場面でも、音と一緒ならきっと記憶に残りやすいんじゃないかなって。同時に、空気を和ませるお手伝いができたら嬉しいなと思っています。

須長:単に面白いというわけではなく、精巧にできているからこその音、という点もユーモアがありますよね。そのバランスが、見ていて楽しいです。

須長:音による人と人のつながりを考えた時に、まず浮かんだのは、音楽以前の原始的な人の作り出す音でした。暗闇の中で仲間を呼ぶ口笛。月のない暗い森の中で視覚を奪われ、方向間隔を失ったときに頼れるのは、仲間の鳴らす口笛の音だけ。僕らの先祖にとって光を失う恐怖は僕らが想像するよりももっと大きな事件だったのだと思いますし、その時に聴いた仲間の出す音はさぞかし頼り甲斐があったことだったと思います。

須長:そういった意味で僕らのDNAに刻まれた音楽以前の音には、そういった緊張感の中で聞こえる時こそ、原始の記憶を呼び覚まされる力があるのではないかと思いました。エリカさんにとっての音とはどんなものですか?

小林:子どもの頃の思い出や、昔聞いた音が一瞬で蘇る経験は、多くの人が持っているはずです。私にとって、音は記憶そのものだと思います。

小林:音は材質によって、あるいは寸法によっても変わるので、微調整しながら音をつくっています。最近のものは、指で塞いで音を少し低くするための穴を作ったりもしています。いろいろ試行錯誤しながら、楽しい音を探しています。

— 音の鳴る壁画について

須長:個人的に装置のようなものにとても強く惹かれます。音が出るからといって何かの欲に立つわけではないのですが、その仕組みが視覚化されている。そして仕組みを見ることでその構造が理解できることにある一種の美しさを感じます。

須長:こういった機械の仕組みを美しいと感じるのは、なぜなんでしょう?きっと理解することが美しいと感じるというような秘密の公式が存在するのではないか、とエリカさんのオブジェを拝見して思わずにいられませんでした。エリカさんはどうしてこのオブジェを作ろうと思ったのでしょうか?

小林:最初にパイプオルガンを作ったとき、工房を訪れたお客さんから仕組みについて質問され、一般の人にも理解してもらいたいと考えるようになりました。そこで、メカニックな部分を取り入れ、仕組みがわかるアート作品として楽しめる形を目指しました。当初は「ふいご」を隠すつもりでしたが、音の仕組みを見せることで作品の魅力を伝えたいと思うようになりました。色をつけると、視覚的にも聴覚的にも楽しめる形になりました。

須長:かつてパイプオルガンが全盛期を迎えていた時代、その構造には一国の技術が結集されており、まさに国家の威信を象徴する存在でした。一台のオルガンが、まるでオーケストラのような壮大な音色を奏でられるという点に、大いなるロマンを感じます。その一部を、家庭に取り入れ、目で楽しみ耳で味わえるのは、とても素晴らしいことだと思います。

— パラサイト動物について

須長:ペーテルさんの作品は、1点もののアートピースです。木の箱という概念を楽々と飛び越える作品で、ペーテルさんの自由な想像力に嫉妬さえ覚えます。僕自身、子供のように想像世界の中でデザインをしたいという強い願望があります。できるだけ考えずにフッと浮かんできた得体の知れないものを掴んで作るようにしています。ペーテルさんはあらかじめスケッチをした完成図を作ってから制作するのでしょうか?それとも削りながら形を作っているのでしょうか?

ペーテル:最初は作り始める前に、大体の大きさを決めて、機械で荒削りしています。木材は、プランを立てて順序立てて作らないといけません。自分の気持ちが準備できるまで、その状態で置いておくこともあります。作りながら考えが変わることもあります。その都度、調整しながら完成させることが多いですね。

須長:ペーテルさんの作品は、不思議な存在だと思っています。植物的でもあり、動物的でもあります。生物と無生物の間のような印象があります。

須長:樹木が、一旦死んで木材になる。ペーテルさんは、それを単に可愛いだけではない、リアリティのある生物に作り変えていると思っています。素晴らしいですよね。ペーテルさんの中で、これらの生物は、どんな世界をどのように生きているんですか?

ペーテル:材料に対する敬意は、とても大切なものだと思っています。木材は、一緒に仕事をしているパートナーとでも言いましょうか。当然、私の中で木材は生きています。私の手の中で、動いたり、変形したり、割れることもあります。私の手の中で、木がどう振る舞うのかを観察することは、最終的な形を決める手助けになっています。

ペーテル:この生物の、まるでトランペットのようなこの器官は、どんな働きをしているのか。音をどう吸収するのか。そんなこと考え、生きる姿をイメージしながら作品を作っています。

須長:ペーテルさんの作品には、ストーリーがある。リアリティもあります。見たことない作品がたくさんなので、いつも楽しみにしています。

ペーテル:私は、自分の作品を『ファンタジーの胎児』と表現しています。

須長:お二人のファンタジーの世界から、たくさんの胎児が生まれることを楽しみにしています。

2人が通っていた工芸学校カペラゴーデンの中庭

須長:スウェーデンの工芸にはヘムスロイドとコンストハンドベルグがありますがこの二つの違いは何でしょうか?

ペーテル:ヘムスロイドとは、『家庭の手工芸』のことで、手作りで作られた衣服や織物、家道具などの総称です。農家さんが冬の閑散期に副業として行なっていました。コンストハンドベルグは、明確な芸術的コンセプトを持ちながらも高度な技術が求められる工芸を指します。近年では両者が混ざり合う傾向がありますが、かつてはより明確に区別されていました。

須長:豊かな感性と才能を有する作家さんも素晴らしいのですが、その自由な才能でつくったものを理解して購入する生活者が多いのも、スウェーデンの素晴らしいところだと思います。わからないことを楽しむ、わからないところに美しさを見出す文化は、日本とは大きく違うと感じています。

須長:お二人はどちらの国も見ていると思うが、作り手から見た、使う人たちの様子の違いを感じることはありますか?

小林:スウェーデンの人は自宅で過ごす時間が長いので、より居心地の良い空間にしたいんだと思います。例えば壁の色を考えるときに、日本だと無難な白を選ぶ人が多いかもしれません。私たちは、黄色や緑色にしようと思っていました。せっかくだったら、絵を飾ったりタペストリーを吊るして、暖かい空間にしたいよね、とか。ちょっとした『こうしたい』の積み重ねが、モノへの興味の差になってるのかもしれませんね。

ペーテル:スウェーデンには、日本ほど多くのレストランがないこともあって、親戚や友人を家に招いてホームパーティを開く文化が根付いています。自宅をいかに居心地の良い空間にし、訪れた人に喜んでもらうか。スウェーデンの人々が、アートへの関心が高いのは、そのあたりも影響しているかもしれませんね。

須長:スウェーデンのコンストハンドベルグは、富の象徴や投資の対象としてのアートとは異なり、日常の暮らしに寄り添う存在です。家に取り入れられたアートは、鑑賞されるだけでなく、友人との会話のきっかけとなり、空間に美しさと喜びをもたらします。まさにアート本来の姿を体現しており、そこに大きな魅力を感じます。

須長:ラゴムの展示会に来てくださる方にメッセージはありますか?

小林:私たちが作る名刺ケースやリングケースなど、目的がはっきりしているものもありますが、半分くらいは『何のために?』と思われるようなものかもしれません。しかし、それもまた大切なことだと思っています。『これは何だろう?』と感じながら見てもらうだけで十分で、それを無理に発展させる必要はありません。それよりも、作品を通じて新しい気持ちや想像が広がったり、『この生物はどんな生活をしているのだろう?』とか、『この音で誰が楽しんでくれるだろう?』といったファンタジーの世界へ繋がるきっかけになれたら、嬉しいですね。

ペーテル:これまでは機能性を重視した作品が多かったのですが、アート的な表現を追求する楽しさを改めて実感しました。お客様が作品を見て楽しんだり喜んでくれたり、あるいは、自分でも何かつくってみたいと思っていただけたら、とても嬉しいです。