INTERVIEW
クリエイティブのポテンシャルを秘めた町を、
アートの力で世界の御代田へ
株式会社ペースアラウンド 代表取締役
山岸 正明さん
五感で感じる写真体験や食やライフスタイルが楽しめる複合施設MMoP(モップ)をはじめ、いま御代田はクリエイティブな人たちが全国から集まっている町として注目を集めています。この地で活動する方々の声を通して、御代田の魅力を再発見する企画「around MMoP」。
第二回目は、御代田町に根差して理想のライフスタイルを提案し続けているショップ「pace around」代表 山岸正明さんにお話を聞きました。
浅間山の麓、標高1000mあたりに位置する林の奥に佇む「pace around」。林道沿いには小さな看板しか出ていないにもかかわらず、毎日、多くの人が訪れます。ヴィンテージ家具と国内から厳選された新作家具、食器、文具、古本にワインや自家製パンまで扱うライフスタイルショップとして支持されています。店の奥にはカフェコーナーもあって自家焙煎コーヒーをゆっくりと味わう人の姿も。店に入ったらまずぐるりと一周、もう一度ゆっくり歩き回ってみるとたくさんの発見があるという「pace around」は、“歩き回る”という店名がその楽しさを表しています。
演劇の舞台のような空間でお客さまをおもてなし
「僕自身、買い付けに行ったときは“pace around”しています。同じところをぐるぐると回ると、一周目では気づかなかったものに二周目、ときには翌日気づくこともあります。だから店内をぐるぐると巡って、何かと出合っていただきたい。ここにはさまざまなものがありますが、全部がここには欠かせないもの。大袈裟ですが、僕はこのお店を演劇の舞台だと思っているんです。大道具で空間を作って、演者がお客さまをもてなし、置いてあるものは何かしらの表現として魅力を放つ。作家や演者が訴えたい表現に触れていただくことで、何かを感じていただけたらいいなと思っています」
店をオープンしたのは約8年前。家具を扱う店をオープンするための広い倉庫のような物件を探す中、元は印刷所だったこの建物に出合います。広々としたスペースと自然豊かな環境が決め手になって、建物の構造はほとんど変えずに店舗としてリノベーションしました。理想的な空間が見つかったものの、林の中とあって、来訪してもらうのはなかなか難しい場所という課題もありました。知っていただくまでに長い時間がかかりました。
「1年目はライブイベントをやり、2年目からはカフェを始め、古本やワインも扱ったり、どうやってお客さまに来ていただくか、どうやって長く居ていただくか、リピートしていただくにはどうしたらいいのかを考え続けた8年間でしたね。いつの間にか扱うものが増えました。すべては知っていただき、必要と思っていただくための手段でした」
こだわりの椅子から理想のパンまで。センスに貫かれたライフスタイル提案
ショップカードに書かれた、“何屋ですか?と聞かないでください。自分たちでもよくわかっていません”というユーモアに溢れた一文に、「pace around」の理念がうかがえます。2021年からはワインソムリエであり、フレンチの料理人でもある板倉正佳さんと手がける自家製パンと惣菜のブランド「JUGOYA」もスタート。ソムリエの料理人と一緒に試行錯誤の末に完成させた理想のパンはワインとの相性抜群で、夜の食事に寄り添う味わいに仕上げていると言います。だから販売は13時からと遅めに設定、食べきってほしいという想いからサイズも小さめ。夜の時間を豊かにしてくれそうなパンですが、ディスプレイはため息が出るほどの美しさ。
「パンづくりはとても難しかったですね。お互いのイメージを統一するためのキーワードが“バゲット”と“ワイン”。これは一致していました。時間はかかりましたが、完成させるまでの過程は楽しいものでした。何種類かつくるなかで一番難しかったのがバゲットですが、自信の一品です」
贅沢に「飾る」ことだけに着眼した新たな提案
これから、山岸さんが演出・出演するこの“舞台”に、また新たな一幕が誕生する予定。それが、「飾る」ことだけにフォーカスしたものを集めたギャラリーのような部屋だと言います。
「家具も食器も生活の中で何かしらの機能や役割を担っていますが、飾るものは使うというよりは、生活の一部として彩りを添える存在です。キャンドル、花器、アートフレーム、オブジェ、ドライフラワーなど、飾るものを買うということがとても贅沢なことだと思うのです。贅沢だけれど、自分のために小さな一輪挿しを買うというような行動が重なっていくことで、空間を心地よくしたいという本質にアプローチできそうだなと。ドライフラワー1本でもいいんです。自分のために買うということを通して、ものの持つ力を感じ、自分が持っているセンスも磨いてほしい。小さなお店ですがそういうことを感じていただけたらいいなあと思っています」
カフェとなりの照明を落とした小部屋は、冬の時期、キャンドルの灯りで食べたスウェーデンのホテルでの朝食がとても心地よく印象的だったという山岸さんの体験から生まれました。時間がゆっくりと流れるように感じるこの部屋のファンは多数。
チーム御代田の一員として、世界から注目される町へ
「お店として、ただものを売るだけでなく、自分が体験したことをお店で表現できたらいいなと思っています。8年前は孤独でしたが、いまはMMoPやひらまつさんのホテルもできて心強いです。ものの良さ、魅力を伝えながら、生活をこう変えていくともっと豊かになるというクリエイティブを担うチームの一員になれたら嬉しいですし、御代田はすごく面白くなると思います。オレゴン州のポートランドが世界から注目される町になったのは、もちろんさまざまな理由がありますが、中でもクリエイティブの力が大きかったのではないかと思います。御代田にもそんな気運があるのではないかと期待しています」
店内にはharuka nakamura、オオヤユウスケのほか、アイスランドのアーティスト、オーラヴル・アルナルズ、家具の音楽を提唱したエリック・サティなど、静かな音楽が流れる。
「僕は音楽も好きなので。アーティストにこの空間でライブをやっていただいて、映像として表現して、それを配信するといったイベントはやってみたいと、そんなふうに思っています」
「最近はお店を訪れる方の雰囲気が少し変わってきたように思います。かつて、御代田にある普賢山落にアーティストたちが集まったのも、偶然ではないように思えてきました。軽井沢ではなく御代田まで足を伸ばす人は、自分の好きなことがわかっていて、自分で行動できる人だと思います。御代田には潜在的なクリエイティブの可能性があるので、これから面白くなりそうですね」
店舗情報
pace around ペースアラウンド
住所:〒389-0201 長野県北佐久郡御代田町塩野400-158
TEL.:0267-32-7007
営業時間:10:00~18:00
定休日:水曜日(臨時休業あり)
http://pacearound.com